両角レディースクリニックは、体外受精、顕微受精などの高度生殖医療を中心とした不妊治療専門のクリニックです。

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胚盤胞培養

Flow of Treatment

胚盤胞の基礎

胚盤胞の分類

最初の数字について

この最初の4や5という数字は、胚盤胞の大きさ(発育段階)を示しています。初期胚のグレード分類とは異なり、胚盤胞の成長に伴ってグレードの数字が増します。つまり数字が1が良いとか5が悪いとかいう訳ではありません。

1⇒2⇒3⇒4⇒5⇒6という様に成長に伴い増えていきます。

  1. 初期胚盤胞(early)胚盤胞腔が全体の1/2以下
  2. 胚盤胞 胚盤胞腔が全体の1/2以上
  3. 完全胚盤胞(full)全体に広がったFull状態
  4. 拡張胚盤胞(expanded)胚盤胞腔容積がさらに拡張し、透明帯が薄くなりつつある
  5. 孵化中胚盤胞(hatching)TEが透明帯の外に脱出し始めている
  6. 孵化後胚盤胞(hatched)胚が完全に透明帯から脱出したもの

数字に続く二つのアルファベット(A,B,C)について

グレード3以上の胚盤胞を構成する内細胞塊と栄養外胚葉の状態から、さらに細かく分類します。内細胞塊(ICM)は、後に赤ちゃんになる部分で、栄養外胚葉(TE)は、後に胎盤になる部分です。内細胞塊、栄養外胚葉ともにABCの3通りに評価されAが最も良好となります。Bはまあまあで、Cは不良となります。

内細胞塊(ICM)

  • A:細胞同士が密に接し、細胞数が多い
  • B:細胞同士の密着が粗で、細胞数が少ない
  • C:細胞数が非常に少ない

栄養外胚葉(TE)

  • A:細胞数が多く互いに接着した上皮を形成している
  • B:細胞数が少なく、結合が粗な上皮を形成している
  • C:数が少ない、大きな細胞が上皮を形成している

初期胚盤胞について

初期胚盤胞といって桑実胚と胚盤胞の中間の早いステージの胚盤胞があります。もう少し培養を続けると拡張してきて胚盤胞のグレード(4AAとか3AB等)を評価する事が出来るようになります。

ただ初期の胚盤胞の場合はまだ拡張していないため、グレードを付けることができません。つまりその胚が良い胚盤胞なのか、それとも悪い胚盤胞なのかがわかりません。

問題は5日目にそういった初期胚盤胞しかない場合に移植すべきか、または拡張胚盤胞まで待ってグレードを評価した上で凍結をするかについてです。

初期胚盤胞を移植する問題点としては、グレードの評価を出来ないまま移植する事になるため、不安が残ります。またもし妊娠しなかった際に胚に原因があったのか、または他に原因があったのかがわかりにくくなります。

そこでその後の胚発生を待って、良好な胚盤胞になったのを確認してから凍結する事にしたとすると、また別の問題が出てきます。その初期胚盤胞が良好胚盤胞にならなかった場合、そこで治療は終了になります。

確かに「良好な胚盤胞にならなかったので移植できなくてもしょうがない」、そういう考え方もあります。ただし、子宮内と体外培養が完全に同じであると言う事は断定はできません。もし移植していたら妊娠していたかもしれない、そういう可能性はあり得ます。

また原則として、「移植しなければ妊娠しない」という大前提があります。いつまでも良好胚盤胞を待つだけではなかなか移植できず、妊娠するチャンスはどうしても少なくなります。グレードがわからない初期胚盤胞でも、新鮮胚盤胞移植をしていたら妊娠した、こういう事もあります。

もう一つの問題として凍結する事に対する胚へのストレスもあります。また凍結融解のコスト、移植のコストなども関係してきます。

そのためそいう色々な事を総合的に判断して、移植すべきか、それとも発生を見て凍結すべきかを判断していく事になります。(なお翌日の6日目に良好胚盤胞になったとしても、この胚盤胞を凍結せずに新鮮胚移植する事は、妊娠率が下がるためお勧めしません。その際は一旦凍結する事をお勧めします。)

レビュー「6日目胚盤胞の凍結胚移植について」の紹介記事(ブログ)はこちら

胚盤胞移植のメリットとデメリット

胚盤胞移植のメリット

  • 着床率が初期胚と比較すると高いと予想されるため、初期胚を2個移植するリスクを冒すことなく、単一胚盤胞移植により多胎妊娠を予防することが可能になります。
  • 卵管異常症例においは、着床間近の胚盤胞を移植することで卵管への着床を軽減でき子宮外妊娠のリスクが少なくなります。
  • 初期胚の移植ではその後の胚発生が進んでいるかどう不明ですが、胚盤胞移植により胚発生を確認して移植を行う事が出来ます。特に過去に何回も初期胚を移植しても妊娠しなかった症例に試してみる価値は高いと思われます。
  • 4~8分割期胚以後胚発生には胚自身の遺伝子情報が影響してくるため、長期培養により胚発生を確認できる事は男性不妊の場合には有効となります。
  • 採卵後5日目になると、子宮内膜の蠕動運動が低下し、子宮収縮頻度は低下するため、より着床に適した時期になります。
  • 初期胚移植の場合、本来ならば胚はまだ卵管内にあるべきなのに、子宮へ移植する事になります。しかし胚盤胞移植は「胚と子宮の同期」が取れている状態での移植なのでより自然妊娠と近い形になります。

胚盤胞移植のデメリット

  • いずれの胚も胚盤胞にならなかった場合、治療(移植や凍結)が出来なくなる事があります。(ただし胚盤胞にならなかった胚を3日目に移植していたとしても妊娠するかどうかは不明です。そのためこれがデメリットと言えるかは議論の余地があります)
  • 長期培養により培養環境の整備や培養システムの管理等、培養室の作業負担が増加します。そのため追加のコストが発生する事があります。
  • 一絨毛膜性双胎の増加。自然妊娠の発生率の約4倍になります。
論文「胚盤胞獲得予測モデル」の紹介記事(ブログ)はこちら

胚盤胞のグレードと妊娠について

胚盤胞のグレードが4AAや5AAの方が圧倒的に妊娠率が高い事は事実です。これは多くの論文で明らかにされています。

ただ同時にそのような良好な胚盤胞でも半数近く染色体の異常 が出ている事もわかっています。

つまりどんなに良好な胚盤胞を完璧なタイミングで完璧に移植したとしても、妊娠率が50%を超える事は困難と言えます。医師から良い胚盤胞を移植したと言われたにも拘らず、妊娠しないでショックを受ける事もあるかと思います。

一方、4CCとか5CC等のグレードが悪い胚盤胞の場合は、やはり妊娠率が極端に低い事がわかっています。そのため施設によってはこの様な胚盤胞は全例移植や凍結を行わない所もあります。(もし妊娠しても流産してしまう事も多いからです。)

ただ確率は低いものの妊娠する事ももちろんあります。例えば妊娠率が2~3%だとした場合、この確率が低すぎると思う人もいるし、逆に結構高い妊娠率と思う人もいます。これはその人の年齢や治療歴により捉え方は違うという事です。

グレードの悪い胚盤胞について

グレードが悪い胚盤胞ができた時、これを移植するべきか、凍結するべきか悩むところです。施設によっては「これ以下のグレードの胚盤胞は治療に用いない」、そういう施設もあります。また「胚盤胞であれば全て凍結する」、こういう施設もあります。

グレードの悪い胚盤胞を治療に用いる事のデメリットを以下に説明します。

①グレードの悪い胚盤胞は妊娠率が極めて低くなります

施設によってもグレードの評価の方法が少し異なるため、具体的な妊娠率は異なるかと思いますが、グレードが低い場合は染色体異常率が高いため妊娠率は低いと考えられています。

h4 class="level4-heading">②妊娠したとしてもかなりの率で流産します

流産する事の問題点として、流産すると妊娠している間の数週間及び流産後の数週間次の治療を待たなければいけなくなります。また流産による精神的なダメージも相当なものになります。そして流産の手術をしなければいけない時にもその負担は精神的にも肉体的にもかなり大きくなります。また流産手術を繰り返すと子宮内膜が薄くなることもわかっています。

③コストの問題

胚凍結した場合、凍結や融解のコスト、また凍結更新のコスト等かなりの金額になります。その一方で妊娠率は低いものの妊娠して無事に産まれているケースもあります。また妊娠率が数%だとしてもそれが高いと考えるご夫婦もいます。その反面数%では低すぎてとても治療をする気が起きないと考えるご夫婦もいます。

そのため一番好ましい方法としては、グレードが悪い胚盤胞ができた時に、主治医の先生からその胚を移植した場合の妊娠率について充分に説明を受け、それを受けて、御夫婦でどのようにしたいかを十分に考えて、主治医の先生と最善の方法を選択する事が大切かと思います。

生殖医学会の演題「凍結融解単一胚移植胚盤胞移植におけるグレード別に見た妊娠成績の比較・検討」の紹介記事(ブログ)はこちら

胚盤胞と妊娠率の関係

胚盤胞ができないと妊娠できないか

現在の培養システムは温度、湿度、PH、組成など全ての事を体内環境を真似しており、かなり体内環境に近付いていますが、まだまだ完璧に真似できているわけではありません。体内環境よりも優れているという保証はありません。培養液もかなり進歩しましたが発展途上の段階です。

一つの胚を二つに分けて、一つは体内で、もう一つは体外でと分けて培養する事が出来ない以上、どちらが優れているかを証明する方法はありません。

そのため、体外培養で胚盤胞ができないとしても、体内環境でなら胚盤胞になる事もあるため、妊娠出来る可能性は十分あります。

現在胚盤胞移植がとても流行っています。しかしこういう事実を理解して、治療に臨む必要があります。

胚によっては、余力があり体内でも体外でもどちらでも妊娠出来るけれど、そこまでの余力がない胚は、もしかしたら早く体内に戻した方が妊娠出来るのかもしれません。

良い胚盤胞ができるためには

良い卵子を採卵するためには

刺激方法の工夫 、注射の種類の選択、採卵のタイミングの最適化、採卵時の卵子の取り扱い 、これら次第で大きく変わります。

良い精子を射出するためには

禁欲期間 、採精場所 、生活習慣 、採取方法 、で精子の質が大きく異なります。アルコール、タバコ、運動、ストレス、睡眠なども精子の質に関係してきます。

培養状態を良くするためには

  • A:培養庫を正しく管理する:培養庫内の温度、湿度、PHを正確に測定し安定させます。
  • B:培養士の技術:卵子、精子、胚の取り扱いは培養士の技術次第で良くもなり悪くもなります。特に顕微受精は培養士の腕に大きく左右されます。
  • C:培養液の選択:培養液のメーカー、ロットにより培養成績が変わる事があります。その患者にあった培養液を使う事が大切となります。
  • D:培養室の環境の整備:クリーン度を高く保つ必要があります。培養室の温度、湿度、光、VOC に対する配慮も必要です。

胚盤胞培養の限界

現在ある治療の中で胚盤胞移植が最も妊娠率が高い事がわかっています。しかし、見た目が良好な胚盤胞だとしてもその半数は染色体異常がある事もわかっています。つまり胚盤胞移植をもってしても最大50%の妊娠率にしかすぎません。正常の胚盤胞だけでなく、こういう染色体異常の胚盤胞も作りだしているようでは50%の妊娠率を超えられません。

今の培養システムは染色体異常胚でも発生させるようになっています。胚の生存に力を入れているので、その結果「染色体の異常な胚」でも生き延びてしまいます。

これを改善するには根本から培養システムを変えて、染色体異常の胚は成長しないようにそういうシステムにしないといけません。具体的には、今の培養環境よりも少し厳しい環境してみることで胚のセレクションがかけられるかもしれません。つまり厳しい環境でも生存できた胚が染色体異常率が下がる、そういう考えです。

培養液や培養環境は日々進歩しています。今後は、形態良好胚盤胞を作るのではなく染色体正常胚盤胞のみを選択培養できる培養液の開発に取り組む事が大切だと思います。

今後、培養液や培養環境のような技術のブレークスルーにより「妊娠できる胚のみを作る事が可能になる」そういう時代がいつか来ると思います。それを見つけるのが現在生殖医療にかかわっている我々の役目だと思っています。

ちなみに、自然妊娠の場合一回の周期あたりの妊娠率は大体25%という事がわかっています。 これは、受精卵の多くに染色体異常があるため、着床しなかったり、着床しても早期に流産してしまうためと言われています。つまりヒトの場合、自然妊娠での限界は25%です。

しかし、今後の技術の更なる進歩で正常な精子、正常な卵子を正確に選び体外受精で確実に受精させて染色体の正常な胚を作りだす事が出来たとしたら、体外受精のほうが自然妊娠よりも安全になる時代が来るかもしれません。

受精着床学会の演題「胚盤胞が何個あれば妊娠できるか」の紹介記事(ブログ)はこちら