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院長コラム

1PN胚は本当に破棄すべきなのか

INDEX 目次

― 単一前核胚の可能性を再評価した大規模メタ解析

体外受精では、受精の確認時に卵子の中に**2つの前核(2PN)**が観察されると「正常受精」と判断されます。一方で、**前核が1つしか確認されない胚(1PN胚)**は、染色体異常や単為発生の可能性があると考えられてきました。そのため多くの施設では、臨床利用の対象とせず破棄されることが一般的でした。

しかし近年、1PN胚からの健康な出生が報告されるようになり、「本当にすべて破棄すべきなのか」という疑問が生まれています。今回紹介する研究は、291,474個の胚を対象に1PN胚と通常の2PN胚を比較した大規模な系統的レビューとメタ解析です。論文のKey messageでは、「1PN胚は必ずしも非正常胚ではなく、臨床利用可能な胚となり得る」と結論づけられています。


1PN胚は発生能力が低い

まず、胚の発生能力について見てみましょう。

メタ解析の結果、胚盤胞到達率は1PN胚で明らかに低く、2PN胚の約半分でした(リスク比0.50)。さらに、良好胚盤胞率も低く、リスク比は0.44という結果でした。

つまり、1PN胚は発生の途中で停止してしまう割合が高く、胚発生の観点では2PN胚より不利であることが明確に示されています。臨床現場で1PN胚が優先的に利用されてこなかった理由は、この発生率の低さにあります。


臨床成績はやや劣るが、妊娠後の経過は同等

次に、実際の妊娠成績です。

遺伝学的検査を行っていない胚盤胞を移植した場合、1PN胚の生児率は2PN胚より低く(RR 0.81)、臨床妊娠率も低い結果でした。しかし興味深いことに、流産率には有意差が認められませんでした

つまり、妊娠成立までの確率は低いものの、妊娠が成立した後の経過は大きく変わらない可能性が示されたのです。


染色体が正常なら結果はほぼ同じ

この研究で特に注目すべき点は、染色体解析を行った場合の結果です。

PGT-A(着床前遺伝学的検査)によって**euploid(染色体数が正常)**と確認された胚を比較すると、生児率は1PN胚と2PN胚で差が認められませんでした(RR 0.85)。さらに、euploid率自体も両群でほぼ同等(RR 0.91)でした。

これはつまり、胚盤胞まで発育した1PN胚の中には、染色体的に正常な胚が一定割合含まれていることを意味します。


IVF由来とICSI由来では予後が大きく異なる

さらに興味深いのが、受精方法による違いです。

サブグループ解析では、

  • IVF由来の1PN胚:生児率に差なし(RR 0.93)

  • ICSI由来の1PN胚:生児率が著しく低い(RR 0.26)

という結果でした。

つまり、1PN胚の臨床的な予後は受精方法によって大きく異なる可能性があります。特にIVF由来の1PN胚では、2PN胚に近い成績が得られる可能性が示唆されています。


出生後の安全性に差はみられない

新生児の転帰についても検討されています。

奇形率、出生体重、出生週数などの指標を比較した結果、1PN胚と2PN胚の間に有意差は認められませんでした。つまり、正常な妊娠に至った場合、出生後のリスクが増加する可能性は低いと考えられます。


ただし遺伝学的評価には注意が必要

一方で注意すべき点もあります。

多くのPGT-A検査では、**染色体数の異常(euploid/aneuploid)**は評価できますが、

  • 倍数性(diploidy)

  • 両親由来の染色体を持つかどうか

までは必ずしも確認できません。

論文では、1PN胚を臨床利用する場合にはSNP解析などを用いて、二倍体であることや両親由来の遺伝子を持つことを確認することが重要であると指摘されています。


1PN胚を「一律に破棄する時代」からの転換

今回の研究から得られる臨床的メッセージは比較的明確です。

1PN胚は確かに発生率が低く第一選択にはなりません。しかし、胚盤胞まで発育した場合には正常胚が含まれる可能性があります。特にIVF由来の1PN胚では臨床成績が比較的良好であり、利用可能な2PN胚が少ない患者にとっては重要な選択肢となり得ます。

したがって、1PN胚を一律に破棄するのではなく、少なくとも胚盤胞まで培養して評価するという考え方は、患者にとって新たな妊娠の機会を広げる可能性があります。

生殖医療の現場では、これまで「例外」とされてきた胚の価値を再評価する動きが進んでいます。1PN胚もまた、その再検討の対象となりつつあるのかもしれません。


出典

Lee T, Qi F, Peirce K, et al. To discard or not to discard 1PNs? A systematic review and meta-analysis on 291,474 embryos. Reproductive BioMedicine Online. 2026;52(2):105080.

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