排卵できる女性の凍結胚移植は「自然周期」がよい? 4,376人の無作為化試験から見えてきたこと
凍結胚移植を行う際には、大きく分けて自分の排卵を利用して移植する「自然周期」と、エストロゲンやプロゲステロンを投与して子宮内膜を整える「ホルモン補充周期」の2つがあります。
ホルモン補充周期は移植日を柔軟に調整しやすく、非常に便利な方法です。しかし一方で、排卵を起こさないため「黄体が形成されない」という大きな構造的違いが存在します。
今回は、国際的医学誌『BMJ』に掲載された最新の大規模臨床試験(無作為化比較試験:RCT)データをもとに、どちらの周期を選択すべきかについて解説します。
4,376人を対象とした最新の大規模比較研究(BMJ誌掲載)
今回ご紹介するのは、中国24施設で実施された大規模な研究です。
排卵のある20~40歳の女性4,376人を「自然排卵周期群」と「ホルモン補充周期群」に無作為に割り分け、単一凍結胚盤胞移植を行った後の成績や経過を比較しました。
研究の流れ(CONSORT flow chart)に沿って最終的に抽出されたのは、以下の割合です。
- 自然排卵周期群:2,185人
- ホルモン補充周期群:2,191人
出生率(ゴール)に有意差はあるのか?
この研究で最も注目すべきデータ(Table 3)は、「Healthy Live Birth(健康な単胎生の出産)」の割合です。
※正期産であり、出生体重が2,500〜4,000g、かつ重度な先天異常を認めない出産として評価しています。
移植周期 | Healthy Live Birth(健康な単胎生)割合 |
|---|---|
自然排卵周期 | 41.6% |
ホルモン補充周期 | 40.6% |
この結果の通り、両群に統計的な有意差はありませんでした。
つまり、排卵ができる女性においては、自然周期を選択したとしても「出産という最も重要なゴール」が低下しないことが証明されたといえます。

妊娠後の安全性・合併症リスクにおける明確な違い
出生率自体には差がなかったものの、妊娠後の経過(Table 3・Table 4)を見ると大きな違いが浮き彫りになりました。
1. 流産率や妊娠高血圧腎症の違い(Table 3)
- 妊娠初期の流産率:自然排卵周期 12.1% vs ホルモン補充周期 15.2%
- 妊娠高血圧腎症(臨床妊娠あたり):自然排卵周期 2.9% vs ホルモン補充周期 4.6%
どちらも自然排卵周期の方が有意に低い結果となりました。
2. 妊娠後・周産期合併症のリスク(Table 4)
さらに母体や胎盤に関わるリスクについても、自然排卵周期の優位性が顕著に示されています。
- 妊娠高血圧症候群(全体):自然排卵周期 6.8% vs ホルモン補充周期 10.0%
- 癒着胎盤スペクトラム:自然排卵周期 1.8% vs ホルモン補充周期 3.6% (約半分)
- 産後出血:自然排卵周期 2.0% vs ホルモン補充周期 6.1% (約3分の1)
特筆すべきは、「癒着胎盤スペクトラムが約半分」「産後出血が約3分の1」まで抑えられている点です。

自然周期のデメリットと注意点
もちろん、自然周期がすべての面で優れているわけではありません。
データ(Table 2)によると、最初の内膜準備周期がキャンセルとなった割合は以下の通りです。
- 自然排卵周期:16.2%
- ホルモン補充周期:11.5%
自然排卵周期の方がキャンセル率は有意に高くなっています。
自然周期では、卵胞の発育状況や黄体形成ホルモン(LH)、エストラジオール(E2)、プロゲステロン(P4)などのホルモン値を細かくモニタリングしながら移植日を決定する必要があります。そのため、通院回数が増えることや、仕事・スケジュール等の調整面ではホルモン補充周期の方が利便性が高いという現実があります。

当院(両角レディースクリニック)としての考え方とまとめ
この研究結果から「ホルモン補充周期を全面的に行うべきではない」と結論付けることはできません。また、今回の研究対象はあくまで自発排卵のある20~40歳の女性です。
しかし、排卵ができる女性に対して「単に日程調整がしやすいから」という理由だけでホルモン補充周期を一律に選択することについては、改めて慎重に考慮する時期に来ていると感じます。
自然周期では、排卵に伴って形成される「黄体」からプロゲステロンだけでなく、妊娠初期の母体循環や胎盤形成を促すさまざまな生理活性物質が分泌されます。
これまで凍結胚移植においては、「どちらの方法がより妊娠しやすいか(妊娠率)」が議論の中心でした。しかし本研究は、「妊娠した後に、どちらの方法がより安全に出産まで到達できるか」という新しい視点の重要性を強く示しています。
当院(東京都中央区・両角レディースクリニック)でも、今後は単に妊娠率だけを追い求めるのではなく、自発排卵がある患者様においては「自然周期」や「修正自然周期」を積極的に検討し、妊娠後の母体や胎盤の安全性まで見据えた最適な移植方法をご提案してまいります。
【引用文献】
Natural ovulation versus programmed regimens before frozen embryo transfer in ovulatory women: multicentre, randomised clinical trial
BMJ. 2026;392. doi:10.1136/bmj-2025-087045
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