ストレスは精子の質に影響するのか ― 妊娠経験のある男性を対象とした大規模研究から分かったこと ―
妊娠を目指す中で「ストレスは良くない」と言われることは少なくありません。しかし、男性の精子にどの程度影響するのかについては、これまで明確な結論は出ていませんでした。
従来の研究の多くは、不妊治療中の男性を対象としていました。そのため、「妊娠できないこと自体がストレスになっているのではないか」という因果関係の逆転(reverse causation)の問題が指摘されてきました。
今回紹介する研究は、その点を克服する設計がなされています。対象となったのは、すでに自然妊娠を経験しているカップルの男性です。つまり、「もともと妊娠できる男性」において、日常生活のストレスが精子の質にどう影響するかを検討した点が大きな特徴です。
研究の概要
1999年から2005年にかけて、米国5都市で実施された前向きコホート研究に参加した男性744人が対象となりました。全員がパートナーを自然妊娠させた経験を持つ男性です。
ストレスの評価方法
精液検査前3か月間に経験した重大なライフイベントをカウントしました。
例:
失業
重い病気
家族の死亡
夫婦関係の問題
経済的・法的問題
ストレスイベントの数は0~6個で評価されました。
精液検査
WHO基準に基づき、以下を測定しました。
精子濃度
総精子数
運動率
正常形態率
研究結果
対象男性の平均値は、
精子濃度:80.3 ×10⁶/mL
運動率:約51%
正常形態率:約11%
と、全体として妊娠可能な集団でした。
しかし重要なのはここからです。
精液採取前3か月間に2つ以上の強いストレスイベントを経験していた男性では、
精子濃度
総精子数
が有意に低下していました。年齢や生活習慣などの交絡因子を調整した後でも、この傾向は維持されていました。
さらに、WHO基準を下回るリスクを解析すると、
精子濃度が基準未満になるリスク:約2倍
運動率低下のリスク:約1.5倍
正常形態率低下のリスク:約2倍
に上昇していました。
一方で、ストレスイベントが1つのみの場合は有意な差は認められませんでした。
つまり、「複数の強いストレスが重なること」が重要なポイントであることが示されました。
この研究が示す意味
この研究の意義は明確です。
妊娠可能な男性であっても、強い心理的ストレスが精子の質を低下させる可能性があることが示されたのです。
ストレスは視床下部―下垂体―性腺系(HPG軸)に影響を与え、テストステロン分泌や精子形成に影響を及ぼす可能性が指摘されています。また、交感神経の過緊張や炎症反応、酸化ストレスの増加なども関与していると考えられています。
重要なのは、ストレスが「不妊の結果」ではなく、「原因の一部になり得る」ことが示唆された点です。
まとめ
強い心理的ストレスは、精子濃度・運動性・形態を低下させる可能性がある
特にストレスが2つ以上重なる場合に影響が顕著
妊娠経験のある男性でも影響が見られる
妊娠を目指す男性にとって、仕事や生活上の強いストレスを見直し、心身のバランスを整えることは、妊娠への準備の一部と言えるでしょう。
精液検査の数値だけでなく、その背景にある生活環境や心理的負荷に目を向けることが、これからの生殖医療には重要です。
出典
Gollenberg AL, Liu F, Brazil C, et al.
Semen quality in fertile men in relation to psychosocial stress.
Fertility and Sterility. 2010;93(4):1104–1111.
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