卵子提供でも自然周期が有利:6万7000周期から見えてきた自然周期移植の可能性
近年、凍結胚移植において「自然周期」と「ホルモン補充周期」のどちらを選択するべきかという議論が、世界的に活発になっています。
以前は、どちらの方法でも妊娠率や出生率に大きな差はないと考えられていました。しかし近年になって、ホルモン補充周期では妊娠高血圧症候群や胎盤異常が増える可能性が指摘されるようになり、改めて注目が集まっています。
今回、医学雑誌『Human Reproduction』に掲載された研究は、この問題を考える上で非常に興味深い内容です。対象となったのは卵子提供による治療を受けた女性で、解析された移植周期は実に6万7,048周期に及びます。
なぜ「卵子提供モデル」の研究が重要なのか?
この研究が重要なのは、卵子提供という特殊なモデルを用いている点にあります。
通常、高齢女性の不妊治療では「卵子の老化」が妊娠率や流産率に大きく影響します。しかし卵子提供では、若年ドナーの卵子を使用するため、卵子年齢という大きな要因をほぼ除外することができます。そのため、子宮内膜環境そのものの影響をより純粋に評価できるのです。
【Figure 1】17万件超のデータから絞り込まれた大規模解析
論文内のFigure 1には、17万件以上の胚移植から、最終的に6万7,048周期が解析対象となった過程が示されています。
○ 人工周期(ホルモン補充周期): 6万0,126周期
○ 自然周期: 6,922周期

これほどまでに極めて大規模な研究データであるからこそ、結果の信頼性は非常に高いと考えられます。
解析結果:自然周期における出生率の向上と流産率の低下
結果は非常に興味深いものでした。調整後解析において、以下のような明確な差が示されました。
○ 出生率: 自然周期群が有意に高い(オッズ比:1.38)
○ 流産率: 自然周期群が有意に低い(オッズ比:0.68)

論文内のTable 2の表には、出生率、流産率、妊娠率がまとめられています。この研究の中心となる結果が最も分かりやすく示されている表であり、自然周期の出生率向上と流産率低下が明確に示されています。

単純な黄体ホルモン不足だけでは説明できない「黄体」の存在意義
さらに興味深いのは、プロゲステロン(黄体ホルモン)値を測定し、不足例には追加補充を行った「最適化ホルモン補充周期」だけを取り出して解析しても、自然周期の優位性が維持されたことです。
つまり、単純な黄体ホルモン不足だけでは説明できない可能性があります。著者らは、自分自身の身体に「黄体」が存在することそのものが重要なのではないかと考察しています。

妊娠高血圧症候群や帝王切開のリスク軽減
また、母体や赤ちゃんへの安全面でも自然周期のメリットが示されました。
○ 妊娠高血圧症候群のリスク: 自然周期で28%低い
○ 帝王切開率: 自然周期で低い
○ 大きめの赤ちゃん(巨大児など)が生まれるリスク: 自然周期で低い
論文内のFigure 2では、妊娠高血圧症候群や帝王切開率の違いが視覚的に示されており、非常に理解しやすい内容になっています。

40代の女性であっても自然周期のメリットは失われない
さらに本研究では、受卵女性の年齢によって自然周期の効果が変わるかどうかも検討されています。
しかし、年齢と移植方法の間に有意な交互作用は認められませんでした。
つまり、40代であっても自然周期のメリットは失われない可能性が示されたのです。これは、多くの患者様にとって心強いデータと言えるのではないでしょうか。
まとめ:自然周期移植の重要性を再評価する流れへ
もちろん、本研究は過去のデータを集計した「後ろ向き研究」であり、ランダム化比較試験(RCT)ではありません。しかし、症例数の圧倒的な多さ、そして卵子年齢の影響を排除できる卵子提供モデルであることを考えると、非常に重要なデータと考えられます。
近年発表された、正常胚(euploid胚)を用いたランダム化比較試験でも、自然周期群で流産率が低く出生率が高い結果が報告されています。今回の研究は、その結果を大規模データで支持する内容とも解釈できます。
凍結胚移植における自然周期移植の重要性を再評価する流れは、今後さらに強まるかもしれません。当院でも、患者様お一人おひとりの状態に合わせた最適な移植周期のご提案を続けてまいります。
出典
Live birth rates after natural cycle versus artificial cycle in women receiving donated oocytes and the impact of female age
Human Reproduction. 2026;41(6):918-928.
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