卵子が少ない(低反応)方では新鮮胚移植と凍結胚移植のどちらが良い?最新論文の知見から解説
近年、体外受精では採卵した胚をすべて凍結し、後日凍結融解胚移植を行う「全胚凍結」が広く普及しています。特に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防や子宮内膜環境の改善を目的として選択されることが多くなりました。
しかし、卵子があまり採れない低反応症例でも同じ戦略が有効なのかについては、これまで十分なエビデンスがありませんでした。今回紹介する論文は、この疑問に答えるため、低反応症例に限定して新鮮胚移植と凍結融解胚移植を比較した初めてのシステマティックレビューです。
1. 最新論文の目的と結論
論文1ページ目には、本研究の目的と結論がまとめられています。低反応症例では全胚凍結が必ずしも有利ではなく、新鮮胚移植の方が良好な治療成績につながる可能性が示されたことが、この論文の最も重要なメッセージです。
今回の研究では、PubMedやEmbaseなど複数の医学データベースから4,423報の論文を検索し、厳密な基準で選ばれた15報が解析対象となりました。その内訳は無作為化比較試験(RCT)が1報、観察研究が14報で、対象患者数は2,0000人(2万6,000人)を超えています。Figure 1には論文がどのような手順で選択されたのかが示されており、信頼性の高いシステマティックレビューであることが分かります。

2. 対象患者と研究の背景
対象となったのは、Bologna基準またはPOSEIDON基準を満たす低反応症例です。つまり、卵巣予備能(AMHなど)が低下していたり、採卵数が少ない患者さんに限定して解析が行われています。
Table 1には各研究の対象患者数、平均年齢、採用された基準、評価項目が整理されており、多様な施設から集められたデータであることが分かります。Table 2では、新鮮胚移植群と凍結融解胚移植群で用いられた刺激法や黄体補充法、凍結方法などが詳しくまとめられており、各研究で大きな違いがないことも確認できます。
3. 主要な解析結果:出生率と妊娠率(Figure 2・Figure 3)
最も重要な結果は出生率です。無作為化比較試験では、新鮮胚移植の方が出生率、臨床妊娠率、累積出生率のいずれも有意に高い結果でした。一方、観察研究では両群に有意差は認められませんでしたが、研究の質を考慮すると、最も信頼性の高いエビデンスは無作為化比較試験であり、その結果は新鮮胚移植を支持するものでした。
図(Figure 2・Figure 3)が示すポイント
- Figure 2(各種妊娠率のフォレストプロット):
出生率では無作為化比較試験で新鮮胚移植が優れており、観察研究では大きな差は認められませんでした。臨床妊娠率についても同様の傾向がみられ、生化学的妊娠率や着床率、多胎率については両群で大きな違いはありませんでした。これらの図は、本研究の主要な結果を理解するうえで非常に重要です。
- Figure 3(累積出生率・流産率・安全性):
累積出生率についても無作為化比較試験では新鮮胚移植が優れていました。また、POSEIDON基準を満たす患者さんでは、新鮮胚移植の方が流産率も低い結果が示されました。一方、子どもの出生体重や早産率、子宮外妊娠率には大きな違いは認められませんでした。つまり、安全性はほぼ同等でありながら、妊娠成績では新鮮胚移植が有利である可能性が示されたことになります。
4. なぜ低反応症例では新鮮胚移植が有利なのか?
では、なぜ低反応症例では新鮮胚移植が有利なのでしょうか。著者らは二つの可能性を挙げています。
①子宮内膜環境への悪影響が少ない
低反応症例では採卵数が少ないため、卵巣刺激による女性ホルモンの上昇が比較的小さく、子宮内膜への悪影響も軽いため、新鮮胚移植でも十分に良好な着床環境が維持される可能性です。
②胚(受精卵)へのダメージ回避
凍結や融解による胚へのダメージです。現在のガラス化凍結技術は非常に優れていますが、それでも細胞レベルでは代謝や遺伝子発現に一定の変化が起こることが知られています。もともと胚数が限られている低反応症例では、その影響が無視できない可能性があると考察されています。
5. 研究の限界と今後の展望
もちろん、この研究にも限界があります。対象となった15報のうち無作為化比較試験は1報のみで、多くは後ろ向き研究でした。また、施設ごとに刺激法や黄体補充法、凍結の適応が異なっており、完全に同じ条件で比較されたわけではありません。そのため、今後さらに質の高い無作為化比較試験による検証が期待されています。
6. まとめ:当院の考え方
今回のシステマティックレビューから分かることは、「全胚凍結はすべての患者さんに有利な治療ではない」ということです。
OHSSのリスクが高い患者さんでは全胚凍結が重要な選択肢になりますが、卵子数が少ない低反応症例では、新鮮胚移植を積極的に検討した方がよい可能性があります。治療戦略は一律ではなく、それぞれの患者さんの卵巣機能や治療目的に応じて最適な方法を選択することが重要であることを、この論文は示しています。
東京都中央区にある当院(両角レディースクリニック)では、患者様お一人おひとりの卵巣予備能(AMH)や過去の採卵結果を精査し、全胚凍結・新鮮胚移植の双方からベストな移植プランをご提案しております。移植法や採卵結果でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
出典論文
Frozen versus fresh embryo transfer in low responders: a systematic review
Sun Y, Sun X, Gemzell-Danielsson K. Fertility and Sterility. Volume 126, Issue 1, July 2026, Pages 96–115.
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