凍結胚移植は自然周期とホルモン補充周期のどちらが良いのでしょうか?最新データをもとに解説
不妊治療を進める中で、非常に多くの方からいただく質問の一つに、「今度凍結胚移植をします。自然周期とホルモン補充周期のどちらが良いのでしょうか?」というものがあります。
結論からお伝えすると、当院では排卵が定期的にある方であれば、原則として「自然周期」または「修正自然周期」を第一選択として考えています。ただし、ホルモン補充周期にもスケジュール管理がしやすいといった大きなメリットがあり、すべての方に自然周期が最適というわけではありません。
今回は、それぞれの特徴やメリット・デメリット、そして2026年6月に発表された極めて重要な最新の論文データを含めて分かりやすく解説します。
1.自然周期とホルモン補充周期の違いとは?
まずは、それぞれの周期がどのような仕組みで子宮内膜を整えるのか、基本的な違いを確認しておきましょう。
1-1.自然周期の特徴
自然周期の最大の特徴は、自分自身の排卵によって「黄体(おうたい)」が形成されることです。
自前の黄体からは、妊娠維持に欠かせないプロゲステロン(黄体ホルモン)だけでなく、リラキシンや血管作動性物質など、さまざまな因子が分泌されます。これらは妊娠初期の血流調節や、赤ちゃんに栄養を送るための「胎盤形成」において重要な役割を果たしていると考えられています。
1-2.ホルモン補充周期の特徴
一方、ホルモン補充周期では、お薬(エストロゲンとプロゲステロン)を外部から投与することによって、意図的に子宮内膜を育てて整えます。そのため、基本的には排卵を起こさず、黄体も形成されません。
2.近年の研究と2026年6月の最新論文(RCT)が示すデータ
これまで長い間、どちらの周期を選んでも「妊娠率や出生率に大きな差はない」と考えられてきました。
しかし近年、ホルモン補充周期では妊娠高血圧症候群、前置胎盤、癒着胎盤、産後出血などの「妊娠合併症」のリスクが増加する可能性が次々と報告されるようになっています。
さらに2026年6月、これまでの常識を揺るがす非常に重要なランダム化比較試験(RCT)の結果が報告されました。
染色体が正常な胚(euploid胚)のみを対象とした比較研究
この研究の画期的な点は、流産の主な原因となる「受精卵(胎児側)の染色体異常」の影響を排除するため、PGT-A(着床前ゲノムスクリーニング)によって染色体が正常であると確認された胚盤胞(euploid胚)のみを対象にしている点です。つまり、「子宮内膜の環境そのものが妊娠結果にどう影響するか」を純粋に評価した研究です。
結果は以下の通り、明確な差となって現れました。
| 評価項目 | 自然周期群 | ホルモン補充周期群 |
|---|---|---|
| 全体の流産率 | 6.7% | 14.2%(約2倍) |
| 妊娠判定陽性例での流産率 | 9.0% | 21.6%(約2.4倍) |
| 出生率 | 67.4% | 47.2% |
ホルモン補充周期で約2倍高い流産率が認められました。
もちろん、この研究は予定していた症例数に達する前に試験が終了しているため、これだけで全てを断定することはできず、慎重な解釈が必要です。しかし、これまでの観察研究で指摘されてきた「ホルモン補充周期における流産リスクや合併症リスク」を裏付ける、非常にインパクトのある重要なデータといえます。
また、別の最新研究(2026年)では、ホルモン補充周期で妊娠が成立した場合、胎盤形成に重要な役割を持つ因子(PAPP-AやIGF-1)が妊娠初期から低値であることも報告されています。黄体がないことによる胎盤形成の違いが、妊娠高血圧症候群や流産リスクの増加に関与している可能性が示唆されているのです。
3.自然周期・ホルモン補充周期のメリット・デメリット
これらの研究結果を踏まえ、それぞれのメリットとデメリットを整理してみましょう。
3-1.自然周期(修正自然周期)
◇ メリット:
○ より生理的(自然)な体内環境で移植ができる
○ 自分自身の黄体が存在する
○ 近年の研究で、妊娠合併症や流産率の低下が示唆されている
◆ デメリット:
○ 排卵日を正確に予測する必要があるため、通院回数が増える傾向がある
○ 排卵が不安定な場合、移植周期そのものがキャンセルになる可能性がある
3-2.ホルモン補充周期
◇ メリット:
○ 薬でコントロールするため、スケジュール管理がしやすい(仕事や遠方からの通院に合わせやすい)
○ 排卵障害がある方や月経不順の方でも、安定して移植を行うことができる
◆ デメリット:
○ 近年のデータにより、妊娠高血圧症候群や胎盤異常、流産率増加との関連が指摘されている
○ 安易に第一選択とすることについて、世界中で再検討が進んでいる
4.当院(両角レディースクリニック)の治療方針
では、すべての患者様が自然周期を選ぶべきなのでしょうか。実際の臨床はそう単純ではありません。
当院の現在の考え方としては、「排卵が規則的にある患者様」では自然周期あるいは修正自然周期を第一選択とし、無排卵症例や卵巣機能低下症例など「自然周期での移植が難しい患者様」において、ホルモン補充周期を選択するのが最も合理的で安全だと考えています。
最も大切なのは、患者様一人ひとりの体の状況やライフスタイルに合わせて、最適な方法を選択することです。
どちらか一方が絶対に優れていて、もう一方がダメというわけではありません。それぞれのメリット・デメリットを正しく理解した上で、納得のいく治療方針を一緒に決めていきましょう。不安なことがあれば、いつでも診察時にご相談ください。
【参考文献】
1.The impact of endometrial preparation on pregnancy loss in vitrified-warmed euploid blastocyst transfer cycles: a randomized controlled trial. Human Reproduction. 2026;41(6):910-917.
2.Placental biomarkers in pregnancies conceived after natural cycle versus hormone replacement therapy frozen embryo transfer. Human Reproduction. 2026.
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