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院長コラム

自然周期の凍結胚移植はLHサージではなくプロゲステロンでタイミングを決めてもよい?最新研究が示した新たな可能性

自然周期の凍結胚移植はLHサージではなくプロゲステロンでタイミングを決めてもよい?最新研究が示した新たな可能性
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自然周期の凍結胚移植において、「いつ排卵したか」を正確に把握し、そのタイミングに合わせて胚移植を行うことは非常に重要です。これまでは、血液中のLH(黄体形成ホルモン)の急上昇である「LHサージ」を基準に移植日を決める方法が一般的でした。しかし、LHサージは短時間しか続かないことも多く、採血のタイミングによっては見逃してしまうという課題がありました。


今回、生殖医療の権威ある国際誌『Human Reproduction』に掲載された最新の前向き研究では、「LHサージではなく、プロゲステロン値の上昇を基準に移植日を決めても妊娠成績は変わらないのではないか」という疑問について検討されています。


1.最新研究の概要:LHサージ群 vs プロゲステロン群の比較

この研究では、490周期の自然周期凍結胚移植を対象に、LHサージを基準に移植日を決めた204周期と、プロゲステロン(黄体ホルモン)値の上昇を基準に決めた286周期を比較しました。


その結果、生児獲得率はプロゲステロン群が56.6%、LH群が52.0%であり、有意な差は認められませんでした。 さらに、臨床妊娠率、hCG陽性率、流産率についても両群に差はなく、どちらの方法でもほぼ同じ成績が得られることが分かりました。

この結果を、年齢や不妊期間、子宮内膜の厚さ、胚の質(グレード)などさまざまな因子を考慮して解析しても、移植日の決定方法そのものは生児獲得率に影響しないことが示されています。


2.研究における移植日決定の具体的なメカニズム

今回の研究では、排卵を誘発するhCG注射は使用せず、完全な自然排卵を利用しています。超音波検査(エコー検査)で主席卵胞が15~16mm程度まで発育した時点から、LH、エストラジオール(卵胞ホルモン)、プロゲステロンを採血で測定しながら排卵を確認しています。


  • LH群の基準
    血中LH値が15 IU/L以上となり、同時にプロゲステロン値が1.0 ng/mL未満であった日をLHサージの日(LH+0)と判定し、その6日後に胚盤胞移植を行いました。
  • プロゲステロン群の基準
    初めてプロゲステロン値が1.0 ng/mL以上になった時点の値から黄体期の日数を推定しました。
    ・1.0~1.6 ng/mL = 黄体期0日目(5日後に移植)
    ・1.6~2.6 ng/mL = 黄体期1日目(4日後に移植)
    ・2.6~5.0 ng/mL = 黄体期2日目(3日後に移植)


いずれも最終的に黄体期5日目に相当する日に胚盤胞移植を行っています。この方法の特徴は、「排卵日そのもの」をピンポイントで当てるのではなく、「現在、黄体期の何日目にいるか」をプロゲステロン値から逆算して移植日を決めている点です。LHサージのように短時間のピークを捉える必要がないため、採血タイミングによる見逃し(エラー)を減らせる可能性があります。


3.統計データから見る妊娠成績と今後の展望

論文内のデータ(Figure 1)を見ると、生児獲得率、臨床妊娠率、hCG陽性率、流産率のいずれも両群の95%信頼区間が重なっており、統計学的な差がないことが分かります。つまり、プロゲステロンを基準にした方法は、従来のLHサージを基準とした方法と同等の妊娠成績が期待できる可能性があります。

また、多変量解析(Table 3)の結果では、移植日の決定方法自体は生児獲得率に影響しなかった一方で、「不妊期間が長いほど生児獲得率はやや低下する」「移植日のプロゲステロン値が高いほど生児獲得率がわずかに高くなる」という結果も示されました。ただし、これだけで「プロゲステロン値は高ければ高いほどよい」と結論づけることはできず、今後のさらなる検証が必要です。


今回の研究の最大のメリットは、プロゲステロンは排卵後に比較的安定して上昇するため、短時間しか続かないLHサージよりも判定しやすい可能性がある点です。LHサージを見逃して移植周期を中止せざるを得ないケースを減らせる可能性があり、患者さんの通院負担や精神的負担の軽減につながることが期待されます。


一方で、この研究は単施設での前向きコホート研究であり、ランダム化比較試験(RCT)ではありません。基準値もその施設の測定機器に合わせたものであるため、現時点ですべてのクリニックにそのまま導入できる段階ではなく、多施設でのさらなる検証が待たれます。それでも、「自然周期の凍結胚移植では、LHサージだけにこだわる必要はないかもしれない」という新しい選択肢を示した非常に興味深い報告です。


4.両角レディースクリニックとしての見解とアプローチ

今回の研究では、LHサージとプロゲステロンのどちらか一方のみを基準に移植日を決定していました。


しかし、当院(両角レディースクリニック)では、以前からLHの値だけに頼るのではなく、プロゲステロン値、エストロゲン値、そして超音波所見(卵胞の大きさや内膜の厚さ)をあわせて総合的に評価し、排卵時期を精密に推定しています


実際の不妊治療の現場では、LHサージがはっきり検出できない場合でも、プロゲステロンの上昇を確認することで黄体期への移行を的確に判断できるケースが多々あります。今回の論文で示されたデータや考え方は、当院が日々行っている日常診療の妥当性を裏付けるものであり、今後の治療戦略においても非常に参考になる知見です。当院ではこれからも最新のエビデンスを取り入れながら、患者さん一人ひとりに最適な個別化医療を提供してまいります。


【参考文献】
Aydin T, Koroglu N, Kahraman E, Albayrak N, Kose E.
Progesterone-based ovulation timing versus LH surge monitoring in true natural cycle frozen embryo transfer: impact on live birth rates in a prospective cohort study.
Human Reproduction. 2026;00(00):1–11.
DOI: 10.1093/humrep/deag109.

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