正常胚でも着床しないことはある?反復着床不全について今分かっていること
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の普及により、染色体数が正常な胚(正常胚)を選択できるようになり、反復着床不全(RIF)に対する考え方は大きく変化しました。
近年の大規模研究では、正常胚を5回連続して移植した場合の累積出生率は98%を超え、子宮や全身に明らかな異常がないにもかかわらず妊娠しない「真の反復着床不全」は2%未満と考えられています。つまり、これまで反復着床不全と考えられていた症例の多くは、実際には胚の染色体異常などの「胚側の要因」によるものだった可能性が高いのです。
しかし、この考え方だけでは説明できない非常に稀な症例も存在します。今回は、最新の文献(Wei SQ et al., 2026)で報告された症例をもとに、現代医療における着床不全のリアルをお伝えします。
1.正常胚を8個移植しても着床しなかった稀な症例
今回紹介された報告は、37歳の女性のケースです。
6回の採卵を行い、23個の胚盤胞が得られ、そのうち8個がPGT-Aで正常胚と判定されました。その後、正常胚8個を含む計14個の胚を10回にわたって移植しましたが、正常胚であっても1個も着床しませんでした。
この患者様に対しては、以下のようなあらゆる対策と治療が行われました。
- 全身・子宮環境の調整: 甲状腺機能、プロラクチン、糖代謝の改善
- 手術療法: 子宮内膜ポリープ・子宮中隔への手術、子宮腺筋症への治療
- 各種オプション・免疫療法: ステロイド、イントラリピッド、子宮内hCG投与、EmbryoGlue、GnRHアゴニスト、免疫グロブリン投与など
これほど多様な追加治療を行ったにもかかわらず、結果として着床には至りませんでした。
2.着床は「胚」だけで決まるものではない
この症例から私たちが学ぶべき重要なポイントは、「正常胚であれば必ず着床する」わけではないということです。
着床が成立するためには、胚の染色体だけでなく、以下のような母体側の複雑な現象が関係しています。
- 子宮内膜の状態や脱落膜化(着床に適した変化)
- 母体と胚の免疫的応答
- 子宮内の血管形成やホルモン応答
- 胚と母体(子宮)との高度な情報交換
現代の高度生殖医療であっても、これらすべての現象を正確に測定・診断することはできません。超音波検査や子宮鏡検査、子宮内膜関連の検査を行っても、現代医学の技術ではまだ発見できない着床障害が存在しているのです。
3.「着床しないから」と焦って過剰な治療に走らないために
では、「正常胚が着床しないなら、もっと検査や治療を増やすべきなのか」というと、必ずしもそうではありません。今回の症例でも、多くの追加治療を行いましたが結果を変えることはできませんでした。
正常胚が1回、2回と着床しなかったからといって、原因を無理に探して特殊な検査を次々と受けたり、科学的根拠(エビデンス)が十分でない免疫療法などを安易に追加したりすることには慎重になるべきです。
現在の生殖医療において、正常胚を複数回移植すれば大部分の方は妊娠・出産に至ります。しかし、ごく少数ながら、どれだけ手を尽くしても着床しないケースが存在します。
そのときに大切なのは、「必ずどこかに原因があるはずだ」と際限なく検査や治療を追加することではなく、「現在の医学ではまだ解明されていない着床の仕組みがある」と客観的に認識することです。
まとめ:医学の限界を理解し、最適な不妊治療を選択する
PGT-Aによって、移植する胚について分かることは飛躍的に増えました。しかし、胚が正常であることは「妊娠の100%保証」ではありません。着床は胚と母体が互いに協調して初めて成り立つ、非常に複雑な生命現象だからです。
今回の報告は、私たちが人間の着床についてまだすべてを解明できているわけではないこと、そして「まだ分からない領域がある」と認める姿勢こそが、患者様にとって真に適切で負担の少ない不妊治療につながることを示しています。
当院では、患者様一人ひとりの状態に寄り添い、科学的根拠に基づいた適切な治療方針をご提案しております。繰り返す着床不全やお悩みがある方は、ぜひご相談ください。
【参考文献】
Wei SQ, Dahan MH, Liao LX, Tan J, Tan SL.
When Genetic Normalcy Is Not Enough: Reconsidering Implantation After Repeated Euploid Embryo Transfer Failure.
Consider This Idea. July 27, 2026.
可能性がございます。
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