体外受精で先天異常は増える?不妊症そのものが影響する可能性を最新研究から解説

体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)では、出生した子どもの先天異常がわずかに増加する可能性がこれまで報告されてきました。
しかし、ここには重要な疑問があります。
先天異常のリスク上昇は、体外受精や顕微授精という治療そのものによるものなのでしょうか。それとも、不妊症そのものや、その背景にある疾患が関係しているのでしょうか。
今回、F&S Reviewsに掲載されたシステマティックレビューとメタ解析では、「不妊症がありながら不妊治療を行わずに妊娠した女性」と「通常の自然妊娠をした女性」を比較し、不妊症そのものと先天異常との関連について検討しています。
23研究、合計9,355,843人の出生児を対象とした非常に大規模な解析です。
「不妊症はあるが治療せず妊娠した女性」を比較
今回の研究でいう「subfertility(妊孕性低下・不妊症)」とは、一般的な意味での自然妊娠とは少し異なります。
具体的には、
・12か月以上妊娠しなかった
・不妊症と診断された
・不妊外来を受診した
など、不妊症の背景がありながら、体外受精などの不妊治療を受けずに妊娠したケースを指しています。
つまり今回の研究は、体外受精や顕微授精などの治療による影響をできるだけ除外し、「不妊症という背景そのもの」が先天異常と関係しているのかを調べた研究です。
不妊症がある女性では先天異常が1.19倍
Figure 1では、13研究を統合した結果が示されています。
不妊症がありながら治療せずに妊娠した場合、出生児に先天異常が認められるオッズは、通常の自然妊娠と比較して1.19倍でした。
研究間のばらつきも比較的小さく、単胎妊娠だけに限定して解析しても結果はほとんど変わりませんでした。
つまり、体外受精などのARTを受けていなくても、不妊症という背景を持つ女性から出生した児では、先天異常がわずかに多い可能性が示されました。
Figure 1 不妊症がある女性の自然妊娠と先天異常の関係

主要な先天異常については明確な差は認められず
Figure 2では、医学的あるいは外科的に重要な「主要先天異常」について、5研究を統合しています。
その結果、オッズ比は**1.08**でした。
ただし、95%信頼区間は0.99~1.17であり、統計学的には明確な差があるとはいえませんでした。
一方、個別の先天異常について見ると、
・消化管の先天異常:1.31倍
・口唇裂・口蓋裂など:1.24倍
という結果が示されました。
ただし、個々の先天異常について検討した研究数はまだ少ないため、これらの結果については慎重に解釈する必要があります。
Figure 2 主要な先天異常との関係

世界各国の大規模研究を解析
Table 1には、今回解析された各研究の対象人数、不妊症の定義、調整した因子、主な結果がまとめられています。
デンマーク、フランス、米国、オーストラリア、中国など、複数の国から大規模な人口ベース研究が含まれています。
不妊症の定義には研究ごとの差がありますが、多くの研究では母体年齢など、先天異常のリスクに影響する可能性のある因子を調整しています。
それでも、不妊症と先天異常との間には弱い関連が認められました。
なぜ不妊症そのものが先天異常と関係するのか
では、なぜ不妊症そのものが先天異常と関係する可能性があるのでしょうか。
現時点では、その原因は明確には分かっていません。
著者らは、不妊症の背景にある疾患として、
・子宮内膜症
・PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)
などが関与している可能性を挙げています。
これらの疾患に伴う炎症、ホルモン環境、代謝異常などが、卵子や初期胚、胎盤形成などに影響している可能性があります。
つまり、これまで「体外受精や顕微授精によるリスク」と考えられていたものの一部は、実際にはARTそのものではなく、もともとの不妊原因や背景疾患によって説明できる可能性があるということです。
「体外受精だから先天異常が増える」と単純には考えられない
これは、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の安全性を考えるうえで、非常に重要な視点です。
例えば、
「ARTで妊娠した女性」と
「不妊症のない女性が自然妊娠した場合」
を単純に比較すると、出生児に認められた差をすべてARTの影響だと考えてしまう可能性があります。
しかし、ARTを受ける女性の多くは、そもそも不妊症という背景を持っています。
そのため、本来は、
ARTで妊娠した女性と
不妊症はあるものの、治療せずに妊娠した女性
を比較することで、体外受精や顕微授精という「治療そのもの」の影響を、より正確に評価する必要があります。
今回の論文でも、今後ARTの安全性を評価する研究では、不妊症そのものを比較対象として考慮することが重要だとしています。
不妊症があるから先天異常が起こるという意味ではありません
今回の結果から、「不妊症があると先天異常が起こる」と考える必要はありません。
論文でも、先天異常の絶対的なリスクそのものは低いことが強調されています。
また、今回認められたリスク上昇も小さなものであり、不妊症の原因疾患や不妊症の重症度など、十分に調整できていない要因も残されています。
大切なのは、ART後に認められるわずかな先天異常リスクの上昇を、すべて体外受精や顕微授精そのものの影響と考えるべきではないということです。
不妊症そのものや、その背景にある疾患が一定の影響を与えている可能性があり、ARTの安全性を考える際には「治療による影響」と「不妊症そのものによる影響」を分けて考える必要があります。
やや難しい内容ですが、この論文が伝えている重要なポイントは、
「体外受精で先天異常が増える」という報告があっても、そのすべてがART治療によるものとは限らず、不妊症そのものが持つ背景も関係している可能性がある
ということです。
参考文献
Bailey M. Milne, Tristan Derry, Susan B. Brogly, Maria P. Velez.
Subfertility and congenital anomalies: a systematic review and meta-analysis.
F&S Reviews. 2026;7(1):100108. doi:10.1016/j.xfnr.2026.100108
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