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院長コラム

体外受精で生まれた子どもは先天性心疾患が増える?最新の大規模解析から解説

体外受精で生まれた子どもは先天性心疾患が増える?最新の大規模解析から解説
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体外受精や顕微授精によって妊娠した場合、「生まれてくる子どもの先天異常のリスクは高くなるのでしょうか」と心配される方は少なくありません。

今回、Human Reproduction Updateに、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療(ART)と先天性心疾患との関係を調べた、大規模なシステマティックレビューとメタ解析が掲載されました。

この研究では35研究を統合し、ARTによって妊娠した約60万人と、自然妊娠した約4,200万人を比較しています。

これまでの研究よりも対象人数が非常に多く、母体年齢などを調整した解析に加えて、IVF(体外受精)とICSI(顕微授精)、新鮮胚移植と凍結融解胚移植など、治療方法ごとの違いも詳しく検討されています。

ARTでは先天性心疾患の頻度がやや高い

Graphical Abstractには、この研究全体の結果が分かりやすくまとめられています。

先天性心疾患の頻度は、

・ARTによる妊娠:2.62%
・自然妊娠:1.44%

でした。

また、母体年齢などの影響を調整した15研究、約3,300万人を対象とした解析でも、ARTで妊娠した児では先天性心疾患のオッズが1.53倍となりました。

さらに、治療や手術を必要とするような「主要な先天性心疾患」では、オッズが1.77倍という結果でした。

一方で、著者らは相対的なリスクの上昇だけではなく、実際に発症する絶対的な頻度は低いことも強調しています。

Graphical Abstract ARTと先天性心疾患の関係

ART 2.62%、自然妊娠1.44%という結果

Figure 3では、29のコホート研究について、ARTと自然妊娠それぞれの先天性心疾患の頻度が示されています。

研究によって頻度にはかなりばらつきがありますが、統合すると、

ART:2.62%
自然妊娠:1.44%

となりました。

ただし、対象となった患者さんの背景や、先天性心疾患の診断方法などは研究ごとに異なります。

そのため、この2つの数字をそのまま「体外受精をすると2.62%の確率で先天性心疾患になる」と、個々の患者さんの発症率として考えることは適切ではありません。

Figure 3 ARTと自然妊娠における先天性心疾患の頻度

母体年齢などを調整しても1.53倍

Figure 4は、今回の研究で特に重要な解析です。

体外受精を受ける女性は、自然妊娠する女性と比べて平均年齢が高い傾向があります。

そのため、単純にARTと自然妊娠を比較すると、年齢などの違いが結果に影響している可能性があります。

そこで母体年齢などの影響を統計学的に調整した研究をまとめたところ、それでもARTによる妊娠では、先天性心疾患のオッズが1.53倍でした。

調整前の解析では1.80倍であったため、母体年齢などを考慮すると差は小さくなりますが、それでも関連は残りました。

Figure 4 ARTと先天性心疾患のリスクを比較した解析

顕微授精だからリスクが高いわけではない

では、顕微授精(ICSI)だからリスクが高いのでしょうか。

また、新鮮胚移植と凍結融解胚移植では違いがあるのでしょうか。

Table 3では、この点について詳しく検討されています。

結果は、

・IVF(体外受精):1.17倍
・ICSI(顕微授精):1.20倍

でしたが、IVFとICSIの間に統計学的に明らかな違いは認められませんでした。

また、

・新鮮胚移植:1.12倍
・凍結融解胚移植:1.18倍

でしたが、こちらについても明確な差は認められませんでした。

単胎妊娠と多胎妊娠についても、ARTとの関連の強さに統計学的な違いはありませんでした。

つまり今回の研究からは、顕微授精や凍結融解胚移植など、特定の治療方法だけが先天性心疾患のリスクを高めているとは言えないということになります。

Table 3 IVF・ICSI、新鮮胚・凍結胚、単胎・多胎による比較

「体外受精が先天性心疾患を引き起こす」とは言えない

ここで非常に重要なのは、今回の研究から

「ARTが先天性心疾患を引き起こしている」

と結論づけることはできないという点です。

不妊症の患者さんでは、自然妊娠する女性と比較して、

・年齢
・不妊症の原因となる基礎疾患
・男性不妊
・その他の両親の背景

などが異なる可能性があります。

今回の研究でも、ARTそのものによる影響と、もともとの不妊原因や両親の背景による影響を完全に分けることはできていません。

ARTに伴う操作や胚培養などが影響している可能性も仮説として考えられていますが、どこまでが治療そのものによる影響なのかについては、今後さらに研究が必要です。

「1.53倍」という数字だけを見て過度に心配する必要はありません

「リスクが1.53倍」と聞くと、不安を感じる方もいるかもしれません。

しかし、相対的な数字だけではなく、実際にどのくらいの頻度で起こるのかという絶対的なリスクも考えることが重要です。

今回の研究では、治療や手術を必要とするような主要な先天性心疾患の絶対的な頻度は、ART全体でも0.97%でした。

つまり、リスクの上昇は認められるものの、実際の発症頻度そのものは低いということです。

また著者らは、妊娠中期に通常の胎児形態スクリーニングが適切に行われている環境では、ARTで妊娠したという理由だけで、すべての妊婦さんに追加の胎児心エコー検査を行うことを現在のエビデンスは支持していないとしています。

まとめ

今回の大規模なシステマティックレビューとメタ解析では、体外受精や顕微授精などのARTによって妊娠した児では、自然妊娠と比較して先天性心疾患の相対的なリスクがやや高いことが示されました。

一方で、

・先天性心疾患の絶対的な頻度は低い
・IVFとICSIで明確な差はない
・新鮮胚移植と凍結融解胚移植で明確な差はない
・特定のART治療だけがリスクを高めているとは言えない
・ARTそのものが原因なのか、不妊症や両親の背景によるものなのかは分かっていない

という点も非常に重要です。

そのため、「体外受精をすると先天性心疾患になる」と考える必要はありません。

患者さんにはリスクを正しく説明すると同時に、数字だけを必要以上に怖がらず、妊娠後に適切な胎児スクリーニングを受けることが大切だと考えます。

参考文献

Frederik Kyhl-Svart, David Arce, Anne Lærke Spangmose, Charlotte Kvist Ekelund, Yiyi Lin, Ditte Vassard, Anja Pinborg, Rui Wang.
Congenital heart defects in children conceived through assisted reproductive technology: a systematic review and meta-analysis.
Human Reproduction Update. 2026.doi:10.1093/humupd/dmag028

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