LINEで初診予約
院長コラム

着床前遺伝学的検査(PGT-M)にも判定の落とし穴がある|遺伝子を見落とす「アレルドロップアウト」とは

着床前遺伝学的検査(PGT-M)にも判定の落とし穴がある|遺伝子を見落とす「アレルドロップアウト」とは
INDEX 目次

着床前遺伝学的検査(PGT-M)は、特定の遺伝性疾患が子どもに受け継がれるリスクを調べるため、胚の遺伝情報を解析する検査です。しかし、少数の細胞から遺伝子を調べるため、検査には技術的な限界があり、遺伝子を正しく検出できない場合があります。

今回、医学誌「Fertility and Sterility」に、PGT-Mで問題となるアレルドロップアウト(ADO)について、516組の夫婦、2,949個の胚を解析した研究が掲載されました。

この研究では、PGT-Mにおける遺伝子の見落としがどの程度発生するのか、また、検査方法の違いによってその頻度が変わるのかを検討しています。

アレルドロップアウト(ADO)とは?PGT-Mで遺伝子を見落とす仕組み

アレルドロップアウト(ADO)とは、父親と母親から受け継いだ2種類の遺伝子のうち、片方が検査でうまく増幅されず、検出できなくなる現象です。

例えば、本来は正常な遺伝子と病的な遺伝子の両方を持っている胚でも、片方の遺伝子が検出されなければ、実際とは異なる検査結果となり、誤った判定につながる可能性があります。

PGT-Mでは、ごく少数の細胞から遺伝情報を解析するため、このような遺伝子の見落としが検査精度に影響することがあります。

PGT-Mの検査精度を高めるハプロタイプ解析とは

Figure 1では、今回の研究で使用されたPGT-Mの検査方法が示されています。

研究では、病気の原因となる遺伝子変異を直接調べるだけでなく、その周囲にある遺伝子の特徴を利用して、どちらの親から受け継いだ遺伝子なのかを確認する「ハプロタイプ解析」を組み合わせています。

ハプロタイプ解析とは、複数の遺伝情報の組み合わせから、遺伝子がどのように受け継がれたかを調べる方法です。

これにより、直接検査で遺伝子を見落とした場合にも、周囲の遺伝情報との矛盾から異常を発見できる可能性があります。

【Figure 1:PGT-Mにおける遺伝子変異の直接検査とハプロタイプ解析】

PGT-Mでアレルドロップアウト(ADO)はどのくらい発生するのか

Table 1とFigure 2では、ADOの発生頻度が示されています。

516家系の2,949個の胚について、188種類の遺伝子に含まれる3,942か所の遺伝子変異部位を調べたところ、425か所(10.78%)でADOが認められました。

検査方法別に比較すると、次のような結果でした。

- NGS法(次世代シーケンシング):4.06%

- サンガー法(従来の遺伝子解析法):7.43%

NGS法の方が、従来のサンガー法よりもADOの発生頻度が有意に低い結果でした。

ただし、ここで示されている10.78%という数値は、遺伝子変異部位ごとのADOの発生頻度を示したものであり、10.78%の胚が誤診されたという意味ではありません。

ADOが発生しても、ほかの遺伝情報を組み合わせることで見落としを発見できる場合があります。

【Table 1:PGT-MにおけるADOの発生頻度】

NGS法とサンガー法では遺伝子を見落とす場所が異なる

Figure 2では、NGS法とサンガー法でADOが起こる場所が、必ずしも一致しないことも示されています。

今回確認された425か所のADOのうち、両方の検査方法でADOが認められたのは28か所のみでした。

つまり、検査方法によって見落としやすい遺伝子の場所が異なることが分かります。

この結果は、PGT-Mの検査精度を高めるためには、単に複数の検査を行うだけでなく、それぞれの検査方法の特徴を理解し、必要に応じて組み合わせることが重要であることを示しています。

【Figure 2:NGS法とサンガー法におけるADO発生部位の比較】

遺伝子の種類によってPGT-Mの検査精度は変わる

Table 2では、遺伝子ごとのADOの発生状況がまとめられています。

特に、PKD1など一部の遺伝子ではADOが多く認められました。

これは、遺伝子の構造や解析の難しさによって、検査の精度が変わる可能性があることを示しています。

そのため、すべての遺伝性疾患に対して同じ方法で検査するのではなく、対象となる遺伝子の特徴に応じて、適切な検査方法を選択することが重要です。

【Table 2:遺伝子ごとのADOの発生状況】

PGT-Mの検査結果はどのくらい信頼できるのか

今回の研究では、PGT-M後に妊娠し、羊水検査を受けた368例において、胚の検査結果と胎児の検査結果が一致していました。

この結果は、今回使用されたPGT-Mの検査方法の信頼性を支持するものです。

ただし、すべての遺伝性疾患や検査方法において、誤判定が起こらないことを保証するものではありません。

PGT-Mは遺伝性疾患のリスクを調べるうえで重要な検査ですが、技術的な限界があることを理解しておく必要があります。

まとめ PGT-Mでは遺伝子の直接検査とハプロタイプ解析の組み合わせが重要

今回の研究で最も重要なのは、PGT-Mでは病気の原因となる遺伝子を直接調べるだけでなく、その周囲の遺伝情報を組み合わせて確認することが重要だという点です。

NGS法による直接検査とハプロタイプ解析を組み合わせることで、アレルドロップアウト(ADO)による誤判定のリスクを減らせる可能性があります。

一方で、PGT-Mには技術的な限界があるため、検査で問題がないと判定された胚を移植して妊娠した場合でも、必要に応じて出生前診断について相談することが大切です。

PGT-Mの検査結果を正しく理解するためには、検査の精度だけでなく、その限界についても十分に理解することが重要です。

参考文献

Ting Zhang, Shuo Zhang, Yaqiong He, Yao Lu, Yichao Niu, Yi Huang, Yanzhi Du, Yueping Zhang, Yun Sun.Systematic assessment of allele dropout in preimplantation genetic testing for monogenic disorders: incidence, detection, and clinical testing strategies.Fertility and Sterility. 2026;126(4):684–692.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2026.06.020https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2026.06.020

背景画像 背景画像
当日予約もお取りできる
可能性がございます。
03-5159-1101
 当日枠 月~金 14:00/土曜 12:00/祝日 10:00
お電話受付終了時間 月~金 18:30/土曜 17:30/祝日 13:30