初期胚移植という選択 ― 胚盤胞移植を再考し、妊娠戦略を見直す ―
体外受精において、胚をどの段階で移植するかは長年議論されてきました。現在は胚盤胞移植が主流とされ、着床率の高さ、単一胚移植の実現、PGTとの親和性といった利点が広く知られています。そのため、「胚盤胞まで育てることが前提」という考え方が一般的になっています。
しかし、この方針をすべての症例に一律に当てはめることには慎重さが求められます。
胚盤胞培養の利点とリスク
胚盤胞移植の妊娠率が高いことは、多くの研究で示されています。
一方で、胚盤胞培養には必ず「途中で発育停止し、移植そのものができなくなる」というリスクが伴います。
十分な数の胚が得られる症例では、このリスクは相対的に小さいものです。しかし、
採卵で得られる胚が1~2個に限られる場合
高年齢で胚の発育率が低下している場合
過去に胚盤胞到達率が極めて低い場合
こうした症例では、胚盤胞まで培養する過程で全てが停止してしまい、その周期の妊娠機会が完全に失われる可能性があります。
「妊娠率が高い方法を選ぶ」という発想は重要ですが、同時に「移植できる機会を確保する」という視点も忘れてはなりません。
体外培養の限界
現在の培養技術は飛躍的に進歩しています。しかし、それでも母体内の環境を完全に再現できているわけではありません。
近年の研究では、染色体が正常であっても体外では胚盤胞まで到達せず、子宮内であれば発育を続けた可能性がある胚の存在が示唆されています。
つまり、「胚盤胞にならなかった=妊娠能力がない」と単純に断定することは、必ずしも科学的に正確とは言えないのです。
初期胚移植という戦略的選択
初期胚移植は、こうした体外培養の限界を前提にした一つの戦略です。
特に胚数が限られている症例では、
「選別を優先する」よりも「妊娠の機会を失わない」ことが重要になる場合があります。
初期胚を早期に子宮内へ戻すことで、
本来持っている発育能力が体内環境の中で発揮される可能性を残すことができます。
これは、胚盤胞移植に対抗する方法ではなく、症例によってはより合理的な選択肢となり得るという意味です。
二者択一ではない
重要なのは、
「初期胚移植か、胚盤胞移植か」という単純な二択ではありません。
年齢
卵巣予備能
得られた胚の数
過去の培養成績
凍結融解後の胚の挙動
これらを総合的に評価し、その方にとって最も妊娠に近づく方法を選択することが本質です。
胚盤胞移植は非常に有力な選択肢ですが、万能ではありません。
同様に、初期胚移植も決して「過去の方法」ではなく、今なお特定の条件下では妊娠の可能性を最大化し得る合理的な選択肢です。
これからの妊娠戦略
近年、胚移植のタイミングについて再び議論が活発化しています。
これは胚盤胞移植が否定されたということではなく、「一律の標準治療」の限界が再認識され始めた結果といえます。
技術を信頼することは重要です。
しかし同時に、その限界を理解し、症例ごとに柔軟に戦略を組み立てる姿勢こそが、これからの生殖医療に求められています。
妊娠率の数字だけではなく、
「その方にとっての最適解は何か」という視点を常に持つこと。
それが、初期胚移植を改めて考える意義だと私たちは考えています。
参考文献
Gardner DK, Fauque P, Racowsky C, Polyzos NP, Ou P, Rienzi L, de Ziegler D.
Fertile Battle: is it still reasonable to transfer cleavage-stage embryos in 2025?
Fertility and Sterility. 2025;124(6):1180–1186.
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