男性の感染症は精子にどこまで影響するのか―最新メタアナリシスが示した本当のリスク

男性不妊の原因として、「感染症」がどの程度影響するのかは長年議論されてきました。
クラミジア、マイコプラズマ、HPV、B型肝炎、さらにはCOVID-19まで、多くの感染症が精液所見に影響する可能性が指摘されてきましたが、研究結果にはばらつきがあり、はっきりした結論は出ていませんでした。
3万人データが示す「感染と精子」の関係
今回ご紹介する論文は、
男性生殖器感染症と精液所見の関係を解析した大規模メタアナリシスです。
【研究内容】
51研究、3万人以上を解析し、感染症を持つ男性では、精液量、精子濃度、前進運動率、総精子数、正常形態率が低下していたことが示されました。
感染症による精子機能低下が明確に示された
ページ6〜8のFigure 2では、細菌感染やウイルス感染ごとの影響が詳しく解析されています。
全体解析では、感染症を持つ男性では精液量が平均0.37mL低下し、精子濃度は約660万/mL低下、前進運動率も約6%低下していました。
つまり、「感染症が精子に悪影響を与える」という方向性自体は支持された結果です。
「差がある=原因」とは限らない
一方で、この論文は非常に慎重な解釈をしています。
ページ10では、「統計学的に差があること」と「実際に不妊原因になること」は別問題であると説明されています。例えば、精子濃度が少し低下していても、もともと十分な精液所見を持つ男性では妊孕性に大きな影響を与えない可能性があります。
しかし、もともと境界域の精液所見であった場合には、そのわずかな低下が妊娠率に影響する可能性があります。
感染症によって精子への影響は異なる
また、病原体ごとの違いも重要でした。
ページ5のTable 1では、感染症ごとの特徴が一覧化されています。
クラミジアやマイコプラズマでは炎症細胞増加や運動率低下との関連が示され、HPV感染では抗精子抗体の増加が強く認められました。ページ9のFigure 3では、HPV感染者で抗精子抗体が大きく増加していることが示されており、免疫学的な男性不妊との関連が示唆されています。
さらにB型肝炎ウイルス感染では流産率増加との関連も報告されました。
一方で、DNA fragmentation index(DFI)は全体として有意差を認めず、「感染症があると必ず精子DNA損傷が増える」とまでは言えませんでした。
COVID-19についても解析されています。
感染後には一時的な精子濃度や運動率低下を示す研究が多かったものの、結果にはかなりばらつきがありました。
著者らは、その背景として高熱や炎症、酸化ストレスなどが関与している可能性を挙げています。
感染症は“背景因子の一つ”として考える
この論文で最も重要なのは、「感染症の影響は一律ではない」という点です。
ページ10では研究間のばらつきが非常に大きいことが強調されており、感染の種類、慢性か急性か、症状の有無、不妊患者か一般男性かによって結果はかなり異なるとされています。
そのため、この論文は「感染症がある男性は全員不妊になる」と述べているわけではありません。実際には、症状がなくても精液に影響が出ているケースもあれば、感染があってもほとんど影響がないケースもあります。
そのため、男性不妊を診る際には、精液検査で異常がある場合や、白血球増加など炎症を疑う所見がある場合、あるいは原因がはっきりしない不妊が続いている場合には、感染症も一つの背景因子として考える必要がある、というのがこの論文の立場です。
男性不妊は単一原因ではなく、多くの要因が重なって起こります。
この論文は、その中で「感染症」が確かに一部関与している可能性を、大規模データで示した重要な研究と言えると思います。
出典
Fertility and Sterility
Impact of male genital tract infections on semen quality: a systematic review and meta-analysis
2026; Vol.125 No.5: 770–783
まとめ:感染症と不妊の関係をどう考えるか
この論文が伝えたいことは、
「男性の感染症は精子に悪影響を与える可能性があるが、その影響は一律ではない」という点です。
大規模解析では、感染症を持つ男性で精液量、精子濃度、運動率、正常形態率などが低下していました。特にクラミジア、マイコプラズマ、HPV、B型肝炎などが関係している可能性があります。
ただし、その低下は比較的小さいことも多く、感染がある男性すべてが不妊になるわけではありません。また、妊娠率や出生率への影響は明確ではなく、研究ごとの差も大きい結果でした。
つまり、「感染症=不妊」と単純に考えるのではなく、精液所見異常や炎症所見がある場合には、感染症も一つの原因として考慮する必要がある、というのがこの論文の最も重要なメッセージです。
可能性がございます。
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