精巣精子(TESE)でも妊娠できる?無精子症治療の受精率と妊娠率を解説
無精子症と診断された患者様にとって、最も切実な疑問は「精巣から直接採取した精子(精巣精子)を使って、本当に妊娠できるのか?」という点ではないでしょうか。
今回は、2026年に発表された大規模な研究論文をベースに、精巣精子(mTESE・TESA)を用いた顕微授精の成績について、射出精子やドナー精子と比較したデータをご紹介します。
1.無精子症治療における「精巣精子」の現状
無精子症の治療では、手術によって精巣から直接精子を回収する「mTESE(顕微鏡下精巣精子回収術)」や「TESA(精巣精子吸引法)」が行われます。
本研究では、約1万人規模の患者データを用い、以下の3グループを比較検討しています。
- 無精子症患者(mTESE・TESAによる精巣精子を使用)
- 通常の不妊患者(射出精子を使用)
- ドナー精子使用症例
このような大規模な横断的比較は、臨床において非常に価値のあるデータです。
2.精巣精子における「受精率」と「胚盤胞到達率」の差
研究の結果、最も顕著な差が見られたのは「受精の段階」でした。
受精率の比較
- 射出精子・ドナー精子:約84〜85%
- TESA(精巣精子吸引法):約77%
- mTESE(顕微鏡下精巣精子回収術):約60%
データが示す通り、mTESEなどの精巣精子では、通常の射出精子に比べて受精率が明らかに低下します。つまり、無精子症治療において「最初の受精の段階」が最も大きなハードルになることが分かります。

また、胚盤胞到達率についても、射出精子やドナー精子の約58〜59%に対し、mTESEでは約50%とやや低い傾向にあります。ただし、TESAでは約53%となっており、その差は比較的小さいものにとどまっています。
3.重要なポイント:胚の「質」には差がない
ここで理解していただきたい重要なポイントは、「受精する胚の数は減るものの、胚の質そのものには大きな差がない」という点です。
染色体が正常な胚(euploid胚)の数は、受精率の影響でmTESE群が少なくなりますが、これはあくまで「数」の問題です。得られた胚の質自体が、射出精子より劣っているわけではないと考えられます。
4.結論:良好な胚が得られれば、妊娠・出生率は変わらない
本論文の最も重要なメッセージは、移植後の成績にあります。
染色体が正常な胚(euploid胚)を移植した後の比較では、以下の項目においてグループ間の差は認められませんでした。
- 妊娠率
- 出生率(赤ちゃんが生まれる確率)
- 流産率
- 早産率・出生体重

つまり、「受精までは不利だが、良い胚ができればその後の結果は同じ」という非常に明確な構造が示されたのです。
さらに興味深いことに、TESA群(主に閉塞性無精子症)では、むしろ妊娠率や出生率が高い傾向も見られました。これは、精巣精子のほうがDNA損傷が少ない可能性などが影響していると考察されています。
5.前向きに治療に取り組むために
この研究が示している本質は、無精子症は「妊娠できない病気」ではなく、「プロセスにハードルがある病気」であるということです。
臨床的には以下の2点が大きな分岐点となります。
- 精子が回収できるかどうか
- 受精率の壁を越えられるかどうか
この壁を越えて良好な胚が得られれば、妊娠の可能性は一般的な不妊治療と大きく変わりません。受精率の低下を考慮し、複数回の採卵や胚の蓄積(貯胚)が必要になるケースもありますが、正しい戦略を立てれば十分にチャンスはあります。
当院では、無精子症という大きな不安を抱える患者様に寄り添い、最新のエビデンスに基づいた最適な治療をご提案しています。「どこにハードルがあるのか」を正しく理解し、共に前を向いて治療を進めていきましょう。
出典:Embryological outcomes of using surgical sperm in obstructive and nonobstructive azoospermia compared with ejaculated sperm. Fertility and Sterility, 2026年, 125巻4号, 632–639.
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