LINEで初診予約
院長コラム

PGT-Aで正常胚を選んでも年齢の影響は残る?「染色体異常と母体の加齢」

PGT-Aで正常胚を選んでも年齢の影響は残る?「染色体異常と母体の加齢」
INDEX 目次

近年、日本でもPGT-A(着床前遺伝学的検査)が普及し、染色体異常のない「正常胚(正倍数性胚)」を選択して移植できるようになりました。そのため、患者様から「正常胚さえ見つかれば、年齢による妊娠率の低下や流産のリスクはなくなるのではないか」というご質問をいただくことが少なくありません。


実際、加齢に伴う妊娠率低下や流産率上昇の大部分は、胚(受精卵)の染色体異常が原因であることが知られています。しかし、「原因は本当にそれだけなのか?」という疑問に真正面から取り組んだ2025年の重要な論文をご紹介します。


正常胚の単一移植でも「年齢の影響」を比較した最新研究

今回ご紹介するのは、以下の論文です。

Maternal age-related declines in live birth rate following single euploid embryo transfer: a retrospective cohort study
Journal of Ovarian Research. 2025;18:24.


この研究では、PGT-Aで正常胚と診断された胚を1個だけ移植した1,037周期を対象に、女性の年齢を以下の3つのグループに分けて妊娠成績を比較しています。

  • 35歳未満
  • 35〜37歳
  • 38歳以上


全例が「正常胚」であり、さらに「単一胚移植(1個戻し)」に条件を揃えているため、染色体異常の影響をできるだけ除いた状態で、純粋に「年齢そのものの影響」を評価した研究といえます。


【研究結果】38歳以上で生児獲得率が低下、流産率は上昇

結果は非常に興味深く、そして私たち医療従事者も改めて深く受け止めるべき内容でした。

1. 年齢グループごとの「生児獲得率」と「流産率」の比較

論文のデータ(Figure 1)を見ると、年齢による差がはっきりと現れています。

年齢グループ生児獲得率
(無事に出産できた割合)
流産率
35歳未満54.5%約13%
35~37歳54.0%約13%
38歳以上41.7%22.6%

正常胚を移植したとしても、38歳以上のグループでは出産まで到達する確率(生児獲得率)が有意に低くなり、流産のリスクは約2倍に高くなることが示されたのです。


2. 背景を揃えても「年齢そのもの」が影響している

さらに重要なのが、患者様のBMIや流産歴、PGT-Aを行った理由(適応)、子宮内膜の状態など、さまざまな因子を統計学的に補正・解析した結果(Table 2)です。

単純に「背景が違う患者様が集まったから」というわけではなく、諸条件を同じに揃えてもなお、38歳以上では若年群に比べて生児獲得率が低く、流産率が高いことが確認されました。また、年齢が上昇するにつれて生児獲得率が徐々に低下し、流産率が上昇していくグラデーションのような傾向(Figure 2)も示されています。「ある年齢を境に突然悪くなる」というよりは、加齢による影響が徐々に積み重なっていくことが分かります。


なぜ正常胚なのに差が出るのか?染色体以外の「母体側の変化」

著者らは、正常胚を移植しても高年齢女性で流産率が高く、生児獲得率が低い理由は、染色体異常以外の「母体側の加齢変化」にあると考察しています。


具体的には、以下のような要因が複雑に関与している可能性が述べられています。

  • 代謝異常や慢性的な炎症: 加齢に伴い体内で起こりやすくなり、妊娠維持に悪影響を及ぼす可能性
  • 血液凝固異常(血栓の起きやすさ): 胎盤への血流などに影響するリスク
  • 子宮内膜の受容能低下や胎盤形成の異常: 赤ちゃんを育むベッド側の機能低下
  • 妊娠合併症の増加: 妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などのリスク上昇


つまり、PGT-Aによって胚の染色体異常という最大のハードルは除外できても、妊娠を維持し、お腹の中で赤ちゃんを育てて出産に至るまでに必要な「母体側の加齢変化」までは完全にカバーできるわけではないということです。


正しい知識を持ってPGT-Aという選択肢に向き合うために

この論文は、決してPGT-Aを否定するものではありません。むしろ、ご年齢が高くなるほど正常胚を見つけること自体の意義や価値は大きくなります。


しかし一方で、「正常胚だから100%安心」「正常胚なら若い人と同じ成績になる」というわけではないという現実も、私たちは知っておく必要があります。


当院からのメッセージ

PGT-Aは「胚の年齢を若返らせる魔法の検査」ではありません。正常胚を選ぶことで、染色体異常という大きな壁を乗り越えることはできますが、それでもなお、年齢が身体に与える影響は残ります。


当院では、こうした最新の医学的エビデンスを常にアップデートしながら、患者様お一人おひとりのご年齢や状況に合わせた最適な不妊治療をご提案しています。不安なことや疑問があれば、いつでも診察時にご相談ください。

背景画像 背景画像
当日予約もお取りできる
可能性がございます。
03-5159-1101
 当日枠 月~金 14:00/土曜 12:00/祝日 10:00
お電話受付終了時間 月~金 18:30/土曜 17:30/祝日 13:30