3PN(3前核)受精は偶然ではない?卵子の質や妊娠率への影響と治療の考え方
体外受精(IVF)を行っていると、ときどき「3PN(3前核)受精」を認めることがあります。
正常な受精(正常受精)では、卵子と精子それぞれの核が1つずつ現れて「2PN(2前核)」となります。しかし、3PNは「異常受精」と考えられており、通常は子宮へ移植する対象にはなりません。
では、この3PNという現象は、単に「その卵子だけの偶発的な問題」なのでしょうか。それとも、その採卵周期全体の卵子の状態(質)を反映しているのでしょうか。
2025年に『Frontiers in Reproductive Health』という医学誌に、この疑問に対する興味深い論文が報告されました。本研究は35歳以下の予後良好な患者様のみを対象とし、さらに精子側の因子の影響を排除するため、ドナー精子を用いた通常媒精(ふりかけ法・IVF)症例のみを解析しています。
最終的に1,250周期が解析され、「3PNをまったく認めなかった群」と、「少なくとも1個以上の3PNを認めた群」で比較が行われました。
1.3PN(3前核)が発生しやすい条件とは?
まず注目すべきは、どのような症例で3PNが発生しやすいのかという条件です。
解析の結果、採卵数が多い症例ほど3PNが増加し、さらにhCG投与日(採卵決定日)のE2(エストラジオール)値が高い症例ほど3PNの発生率が高くなっていました。
統計的な多変量解析でも、「採卵数」と「hCG投与日のE2値」の2つが、独立した3PN発生因子として抽出されています。
論文の著者らは、卵巣刺激に強く反応する症例(高反応層)では、未熟卵や過熟卵が混在しやすくなり、その結果として多精子受精(1つの卵子に複数の精子が入り込む現象)が増加する可能性を指摘しています。
つまり、3PNは単なる偶然の出来事ではなく、「卵子成熟の質」や「卵巣刺激への反応性」と深く関係している可能性があるのです。


2.3PNの存在が正常受精胚(2PN)の妊娠率・生児獲得率に与える影響
次に、最も重要となる「妊娠成績への影響」について見てみます。

本研究では、それぞれの群における臨床結果を比較しています。
- 3PNを認めなかった群:継続妊娠率 68.5% / 生児獲得率 66.9%
- 3PNを認めた群:継続妊娠率 62.8% / 生児獲得率 59.8%
さらに、流産率に関しては以下の通りでした。
- 3PNを認めなかった群:7.8%
- 3PNを認めた群:12.3%
3PNを認めた群において、流産率が有意に高くなっていることが分かります。
ここで非常に興味深いのは、移植された胚はすべて正常受精した「2PN胚」であるという点です。決して3PN胚を移植したわけではありません。
それにもかかわらず、「同じ周期内に3PNが存在した」というだけで、正常受精胚のその後の妊娠率や生児獲得率が低下し、流産率が上昇していたのです。
また、統計学的な有意差には達していないものの、3PNの数が増えるにつれて、妊娠率・継続妊娠率・生児獲得率が低下する傾向も認められています。

3.「卵子集団全体から発せられる警告サイン」という仮説
著者らは考察の中で、非常に興味深い仮説を述べています。
たとえ移植した胚が見た目に問題のない正常受精(2PN胚)であっても、同じ周期に3PNが存在すること自体が、その周期で育った卵子全体の質の低下を反映している可能性があるというのです。
論文内では、その背景として「染色体異常」「ミトコンドリア機能異常」「エピジェネティックな異常(遺伝子の働きを調節する仕組みの異常)」などが存在する可能性が議論されています。
つまり、3PNは単なる目の前の受精異常にとどまらず、「その周期の卵子集団全体から発せられる警告サイン」である可能性があると考えられます。
4.当院が考える3PN発生時の治療アプローチ
私は以前から、多精子受精や3PNが頻発する症例においては、単に次の受精方法を顕微授精(ICSI)へ変更するだけでは、本質的な解決にならない場合があると考えてきました。今回の論文は、まさにその考え方を支持する貴重なデータといえるかもしれません。
よく「3PNが出たので、次回は顕微授精(ICSI)にしましょう」「多精子受精は精子が入りすぎただけです」という単純な説明がなされることがあります。もちろん、顕微授精にすることで物理的な多精子受精による3PNを防ぐことは可能です。しかし、顕微授精で3PNを防げたとしても、卵子側が本来持っている発生能(育つ力)そのものまでを改善できるわけではありません。
3PNの発生は、「卵子側の受精制御や成熟の問題」を反映している可能性があります。
だからこそ私たち医師は、単に受精率の数字だけを追うのではなく、「なぜ3PNが発生したのか」「その背景にどのような卵子因子が存在しているのか」を深く考察し、卵巣刺激法(マイルド法への変更など)やトリガーの工夫など、個別化されたアプローチを考えていくことが重要です。
もちろん、3PNが出た周期だからといって、絶対に妊娠できないわけではありません。現に多くの方が正常受精胚から妊娠・出産されています。
しかし、3PNの存在は、その周期の卵子の質を評価する一つの重要な指標になり得ます。当院では今後も、こうした最新の知見を日々の診療に活かし、患者様お一人おひとりに最適な不妊治療を提案してまいります。
不安なことや疑問がございましたら、いつでも診察時にご相談ください。
【参考文献】
Influencing factors of three pronuclei incidence and their impact on pregnancy outcomes in women with good prognosis undergoing conventional in vitro fertilization with donor sperm: a retrospective cohort study
Sun J, Liu X, Shi S, Li M.
Frontiers in Reproductive Health. 2025;7:1509710.
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