高プロラクチン血症の原因には内服している薬剤が影響していることもあります
不妊治療の初診時やスクリーニング検査の中で、「プロラクチン(PRL)の値が少し高いですね」と医師から言われた経験のある方は多くいらっしゃると思います。
プロラクチンは脳の下垂体から分泌されるホルモンで、本来は妊娠・出産後に母乳(乳汁)を作るために重要な働きをしています。しかし、妊娠していない時期にプロラクチンが常に高い状態(高プロラクチン血症)になると、脳からの排卵シグナルが妨げられ、排卵がうまく起こらなくなったり、月経不順や無月経を引き起こしたりすることがあり、不妊の大きな原因の一つとなります。
1.下垂体の腫瘍だけじゃない?「薬」が原因となるケース
「高プロラクチン血症」という診断名を聞くと、「脳の下垂体に腫瘍ができているのではないか」と強い不安を感じ、心配される方も少なくありません。もちろん、腫瘍(プロラクチノーマ)が原因であるケースもありますが、実際の臨床現場では、日常的に服用している「お薬」が原因でプロラクチン値が上昇しているケース(薬剤性高プロラクチン血症)も決して珍しくありません。
2.なぜ薬の服用でプロラクチンが上昇するのか?
プロラクチンの分泌は、通常、脳内の「ドパミン」という神経伝達物質によって過剰にならないよう適切に抑えられています。しかし、このドパミンの働きを弱める(ブロックする)作用を持ったお薬を服用すると、プロラクチンの分泌抑制が外れてしまい、血中濃度が上昇してしまうのです。
3.高プロラクチン血症を引き起こすことがある主な薬剤一覧
高プロラクチン血症を起こす薬剤は、脳内でプロラクチンの分泌を抑えている「ドパミン」の働きを弱めるものが中心です。代表的な薬剤を以下にまとめます。意外な日常薬が含まれていることもあるため、現在服用中のものがないかご確認ください。
① 抗精神病薬(最も頻度が高い薬剤)
統合失調症や双極性障害などの治療で使用される抗精神病薬は、ドパミン受容体を遮断する作用が強いため、高プロラクチン血症を最も起こしやすい薬剤として知られています。
- リスペリドン(代表的な商品名:リスパダール)
- パリペリドン(代表的な商品名:インヴェガ)
- ハロペリドール(代表的な商品名:セレネース)
- クロルプロマジン(代表的な商品名:コントミン)
- レボメプロマジン(代表的な商品名:ヒルナミン、レボトミン)
- スルピリド(代表的な商品名:ドグマチール、アビリット) ※胃薬としても処方されます
- アミスルプリド(※主に海外で使用される薬剤)
※特にリスペリドン、パリペリドン、スルピリドは、プロラクチン値を著しく上昇させやすい傾向があります。
② 制吐薬(一般的な吐き気止め)
意外と見落とされがちなのが、内科や胃腸科で日常的に処方される胃腸の吐き気止めです。これらもドパミンをブロックする作用を持つため、短期間の服用であってもプロラクチンを上昇させることがあります。
- メトクロプラミド(代表的な商品名:プリンペラン)
- ドンペリドン(代表的な商品名:ナウゼリン)
③ 消化管運動改善薬(胃炎・胃潰瘍の薬)
胃の不調や胃潰瘍などの治療で処方されるお薬です。
- スルピリド(代表的な商品名:ドグマチール) ※抗うつや胃潰瘍など幅広い目的で使われます
- レボスルピリド(※主に海外で使用される薬剤)
④ 抗うつ薬・抗不安薬
頻度自体はそれほど高くはありませんが、メンタルクリニック等で処方される以下の薬剤でもプロラクチンが上昇することが報告されています。
- パロキセチン(代表的な商品名:パキシル)
- セルトラリン(代表的な商品名:ジェイゾロフト)
- フルボキサミン(代表的な商品名:ルボックス、デプロメール)
- 三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)
⑤ 降圧薬(血圧を下げる薬)
- メチルドパ(代表的な商品名:アルドメット) ※現在では使用頻度は減少しています。
⑥ 女性ホルモン製剤
軽度のプロラクチン上昇を認めることがあります。
- エストロゲン製剤
- 低用量ピル
- ホルモン補充療法(HRT)で使用する薬剤
⑦ オピオイド(医療用麻薬・鎮痛薬)
- モルヒネ
- オキシコドン
- フェンタニル
- トラマドール
⑧ その他の薬剤
- ベラパミル(カルシウム拮抗薬・不整脈や高血圧の薬)
- シメチジン(H2ブロッカー・胃酸分泌抑制薬)
- レセルピン(現在ではほとんど使用されていません)
4.薬剤性が疑われる場合の注意点(自己中断は絶対に避けてください)
このような薬剤性の高プロラクチン血症の場合、原因となっているお薬を変更したり、一時的に中止したりすることで、プロラクチン値が速やかに改善することが多くあります。
しかし、ご自身の判断で勝手にお薬の服用を中止することは絶対に避けてください。特に精神科や心療内科のお薬は、急に中止すると元の症状が急激に悪化したり、離脱症状が出たりして心身に大きな負担がかかるリスクがあります。必ず、当院の医師だけでなく、そのお薬を処方している「処方医(担当医)」と密に連携・相談しながら対応していくことが非常に大切です。
5.両角レディースクリニックでの対応とメッセージ
不妊治療においては、単に「プロラクチンの数値が高い」という結果だけで、一律に強い排卵障害の治療や専門的な脳の検査を進めるわけではありません。現在服用されているすべてのお薬、普段の月経周期の状態、超音波検査による排卵の有無、乳汁分泌といった自覚症状の有無などを総合的に評価し、本当に今すぐの薬物治療が必要なのかを慎重に判断いたします。
もし検査でプロラクチンが高いと言われたら、まずは現在服用しているお薬(常用している市販薬やサプリメントも含めて)がないかを今一度ご確認いただき、必ず初診時や診察時に医師へお伝えください。お薬が原因であると分かれば、脳の精密検査などの不要なステップや、過度な不安を避けられることも少なくありません。一人ひとりに適した安心できる不妊治療を、共に進めてまいりましょう。
可能性がございます。
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