【医師解説】胚移植は自然周期?ホルモン補充周期?黄体は単なるプロゲステロン産生だけではない

今回のセミナーでは、胚移植における最大の議論の一つである「自然周期か、ホルモン補充周期か」というテーマについて、詳しくお話ししたいと思います。
黄体がもたらす「プロゲステロン以外」の重要な役割
自然周期では、自ら排卵することによって卵巣内に「黄体」が形成されます。黄体からは黄体ホルモン(プロゲステロン)だけではなく、妊娠初期の母体循環の適応や着床、胎盤形成に関与すると考えられるさまざまな生理活性物質が分泌されています。
一方、ホルモン補充周期では排卵を起こさないため、原則として黄体は形成されません。エストロゲンとプロゲステロンを外から補充することで妊娠を成立・維持させることはできますが、「黄体が存在する生理的な妊娠環境を完全に再現できているのか」という点については、改めて考える必要があります。
妊娠後の周産期合併症リスクと最新データ(癒着胎盤・妊娠高血圧症候群)
ここ数年、この違いが単なる理論ではなく、実際の妊娠・周産期予後に影響している可能性を示す報告が相次いでいます。特に注目されているのが、妊娠高血圧症候群や妊娠高血圧腎症、癒着胎盤、産後出血などの周産期合併症です。
なかでも癒着胎盤については、非常に興味深いデータが出ています。日本のART(生殖補助医療)登録を用いた17万件を超える大規模解析によると、癒着胎盤の発生率は以下の通りでした。
- 新鮮胚移植: 0.16%
- 自然周期 凍結胚移植: 0.17%
- 排卵刺激周期 凍結胚移植: 0.14%
- ホルモン補充周期 凍結胚移植: 1.48%
つまり、「凍結胚移植だからリスクが高い」という単純な話ではなく、排卵があり黄体が形成される周期なのか、それとも排卵を抑えて黄体が存在しないホルモン補充周期なのかという違いが重要なのではないか、という考え方が提示されています。
「妊娠率」だけでなく「母児の安全」まで見据えた移植周期の選択へ
もちろん、これらの結果だけからホルモン補充周期そのものが周産期リスクの原因であると断定することはできません。自然周期を選択できる患者様と、ホルモン補充周期を必要とする患者様では、背景因子が異なる可能性があるためです。
しかし、近年の研究を総合すると、従来の「移植日に子宮内膜が何mmあるか」「妊娠率が何%か」という点だけで移植方法を選択する時代は終わりを告げつつあります。現在は、妊娠成立後の胎盤形成、母体循環、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、産後出血、そして最終的な「母児の安全」まで見据えて移植周期を選択する時代へと変わりつつあります。
どちらの移植方法が最適なのか?
では、排卵できる患者様ではすべて自然周期を第一選択にすべきなのでしょうか。
自然周期には、通院回数が増える、排卵日の正確な予測が必要、移植日の調整が難しい、周期によってはキャンセルになるといったデメリットも存在します。一方でホルモン補充周期には、通院スケジュールを計画しやすく、排卵障害のある患者様にも確実に対応できるという大きなメリットがあります。
そして最も重要なのは、「妊娠率・出生率そのものにどれほどの違いがあるのか」という点です。
今回のセミナーでは、「妊娠しやすいのはどちらなのか」という従来の議論にとどまらず、「妊娠した後まで考えた場合、本当に望ましい移植方法はどちらなのか」という視点から、自然周期とホルモン補充周期について最新のエビデンスを交えて整理・解説いたします。ぜひご参加ください。
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