良い胚を何度も移植しているのに、なぜ妊娠しないのでしょうか?
「良い胚を何度も移植しているのに、なぜ妊娠しないのでしょうか?」
診療をしていると、このようなご質問を受けることがあります。
確かに妊娠において胚の力は非常に重要です。特に年齢が上がると染色体異常を持つ胚の割合が増えるため、まず胚側の要因を考える必要があります。
妊娠には胚だけでなく「受け入れる側」も大切
しかし、それだけでは説明できないケースがあります。
PGT-Aで染色体正常と判定された胚を移植しても着床しない方や、形態的に良好な胚を何度移植しても妊娠しない方が実際にいます。
そこで考える必要があるのが、「胚を受け入れる側に何か原因がないか」という視点です。
着床と免疫、そのバランスをみるTh1/Th2比
その一つとして、最近注目されているのが免疫です。
妊娠は非常に不思議な現象です。胚には父親由来の遺伝情報も含まれるため、母体にとって完全な「自己」ではありません。それでも通常は免疫が適切に調整されることで、胚を受け入れ妊娠が成立します。
ところが一部の患者さんでは、この免疫のバランスが攻撃する方向に傾いている可能性があります。
その指標の一つがTh1/Th2比です。
Th1/Th2比が高い患者さんを対象とした臨床研究
2026年に国立成育医療研究センターなどの研究グループから、Th1優位の難治性不妊患者さんに対して免疫抑制薬タクロリムスを使用した臨床研究が報告されました。
対象はTh1/Th2比が10.3以上で、通常の不妊症検査では明らかな原因を認めない難治性不妊の患者さんです。
胚移植2日前から16日間タクロリムスを投与したところ、臨床的妊娠率は低用量群66.7%、高用量群55.6%でした。
着床しない原因を、さまざまな角度から考える
非常に興味深い結果だと思います。ただし、これは「着床しない方にはタクロリムスを使えばよい」という意味ではありません。
大切なのは、着床しない原因を胚だけに求めないことです。
胚、子宮、ホルモン、そして免疫。何度も良好胚を移植しているにもかかわらず結果が出ない場合には、一度違う角度から原因を考えてみることが必要だと思います。
当院でのTh1/Th2検査とタクロリムス治療
当院でもTh1/Th2検査を行い、適応があると判断した方には、研究で用いられた16日間のプロトコールに準じてタクロリムス治療を行っています。
実際に治療を開始してから、これまで良好胚を移植しても結果が出なかった方が着床するケースも経験するようになりました。
もちろん、まだ当院での症例数は限られており、すべての方に効果がある治療ではありません。
しかし、「良い胚なのになぜ着床しないのか」
この問いに対して、免疫という視点が一つの答えになる患者さんがいる可能性はあると考えています。
この「着床と免疫」の関係については、第56回オンラインセミナーで詳しく説明しています。
文章だけでは少し分かりにくいTh1/Th2の考え方や、どのような患者さんにタクロリムス治療を検討するのかについても解説していますので、良好胚を繰り返し移植しても結果が出ず悩まれている方には、ぜひ一度ご覧いただきたいと思います。
第56回「着床不全と免疫異常〜Th1/Th2とタクロリムス治療を考える〜」
参考文献
Hisano M, Nakagawa K, Ono M, et al. Efficacy of tacrolimus treatment in two-dose single-group controlled trial for patients with refractory infertility. Journal of Reproductive Immunology. 2026;175:104904. doi:10.1016/j.jri.2026.104904.
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