慢性的な骨盤痛とマイクロバイオーム(腸内・腟内・子宮内膜・尿路細菌叢)の関係

慢性的な骨盤痛は、子宮内膜症や子宮腺筋症、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎、外陰部痛など、さまざまな疾患でみられます。
今回、国際的な学術誌『Human Reproduction』に掲載されたレビュー論文より、こうした慢性骨盤痛と「腸内・腟・子宮内膜・尿路のマイクロバイオーム(細菌叢)」との関係についてまとめた最新の知見をご紹介します。
慢性的な骨盤痛は、単に病変そのものから生じるだけでなく、免疫異常、ホルモン環境、神経系の感作などが複雑に関係しており、その上流にマイクロバイオームの乱れ(dysbiosis)が存在する可能性が注目されています。

部位ごとのマイクロバイオームと慢性骨盤痛への影響
1. 腟内マイクロバイオーム
論文では、腟内で善玉菌である Lactobacillus(ラクトバチルス)が減少し、Prevotella(プレボテラ)や Gardnerella(ガードネレラ)などの細菌が増加する状態が、子宮内膜症や強い月経痛における炎症と関連することが報告されています。
2. 子宮内膜マイクロバイオーム
子宮内膜のマイクロバイオームについては、研究ごとの結果にばらつきが大きく、特定の細菌が子宮内膜症や骨盤痛の直接的な原因であると結論づけられる段階ではありません。今後の検証が期待される領域です。
3. 腸内マイクロバイオームと痛みの増幅メカニズム
腸内細菌については比較的多くの研究があり、子宮内膜症や過敏性腸症候群(IBS)などで腸内細菌叢の変化が報告されています。
特に興味深いのは、腸内細菌の変化によって腸管のバリア機能が低下すると、炎症性物質が増加し、免疫反応や神経系を介して痛みが増幅される可能性があるという点です。

マイクロバイオームが痛みを引き起こす仕組みとエストロゲン代謝
論文内の Figure 1 では、このメカニズムが非常に分かりやすく示されています。
- 正常なマイクロバイオーム: 腸管や腟のバリア機能が維持され、炎症や神経の過敏性が抑えられている。
- 細菌叢の乱れ(dysbiosis): 炎症、ホルモン代謝、Gut-Brain Axis(腸脳相関・腸神経系)を介した神経系の変化が重なり、慢性的な痛みにつながる。
また、腸内細菌はエストロゲン代謝にも関係しています。
「estrobolome(エストロボローム)」と呼ばれる腸内細菌由来の酵素群は、腸管からのエストロゲン再吸収に影響を与えます。子宮内膜症や子宮腺筋症はエストロゲン依存性疾患であるため、腸内細菌とエストロゲン代謝の関係は今後非常に重要な研究領域になると考えられます。
(※ただし現時点では、腸内細菌の変化が実際に血中エストロゲン濃度を変化させることを示すヒトでの直接的な証拠はまだ十分ではありません)
動物実験とヒトにおける研究の現状
論文の Table 3 では、子宮内膜症や過敏性腸症候群、慢性骨盤痛と腸内細菌との関係を調べた研究がまとめられています。

動物実験では、抗菌薬などで腸内細菌を減少させると子宮内膜症病変が減少し、子宮内膜症を持つマウスの腸内細菌を移植すると病変が再び増加するという興味深い結果が報告されています。
一方で、ヒトにおいて因果関係を直接証明した研究はまだ限られており、関連性と原因を慎重に区別して考える必要があります。
プロバイオティクスなどの治療への応用と注意点
治療への応用をまとめた Table 4 では、プロバイオティクス、食事療法、短鎖脂肪酸、便微生物移植や腟内微生物移植など、多様なアプローチが検討されています。
子宮内膜症患者さんを対象とした小規模なランダム化比較試験では、Lactobacillus を含むプロバイオティクスによって月経痛や全体の痛みが軽減したとの報告もありますが、対象者が37人と少なく、まだ確立した治療法とはいえません。

著者らも、マイクロバイオームを標的とした治療の多くはまだ動物実験や小規模研究の段階であり、慢性骨盤痛に対する標準治療として推奨できるほどのエビデンスはないとしています。
特に抗菌薬の使用に関しては、正常な細菌叢を破壊するリスクや耐性菌の問題があるため、明確な感染症が確認されていない患者さんに安易に使用すべきではないと警告されています。
骨盤痛をひとつの「ネットワーク」として捉える
この論文から見えてくるのは、慢性骨盤痛を子宮や卵巣だけの問題として捉えるのではなく、腸、腟、子宮内膜、膀胱、免疫、ホルモン、そして神経系まで含めた一つのネットワークとして考える必要性です。
さらに著者らは、骨盤痛を抱える女性の多くが生殖年齢であることから、こうしたマイクロバイオームの変化と「着床」や「妊娠」との関係についても、今後さらに検討する必要があると指摘しています。
現時点では「マイクロバイオームを整えれば子宮内膜症や骨盤痛が治る」という段階ではありませんが、痛みの原因をより広い視点から理解し、将来的に患者さんごとに最適化された治療を選択するための新しい方向性として、非常に期待される研究領域です。
【引用・参考文献】
Jonas Vibert, Milos Stojanov, Tatiana Da Silva, David Baud, Nicola Pluchino. Microbiome and chronic pelvic pain in women: a mini-review. Human Reproduction. 2026;41(9):1482–1496.
当院(両角レディースクリニック)の考え方とアドバイス
「では、患者さんはどのように対処すればよいのでしょうか?」
現時点では、マイクロバイオームを整えることだけで子宮内膜症や慢性骨盤痛を根本治療できる段階ではありません。
一方で、Lactobacillus などのプロバイオティクスについては、痛みの緩和に関する研究も少しずつ進められています。当院でも乳酸菌を含むプロバイオティクスをお取り扱いしておりますが、あくまで腸内・腟内環境を整えるための補助的な選択肢として位置づけています。
現段階で特定の乳酸菌製品が子宮内膜症や慢性骨盤痛を改善すると断定できるほどのエビデンスはありません。
まずは原因となる疾患を専門医のもとで適切に診断・治療することが基本です。そのうえで食生活や生活習慣を整え、必要に応じてプロバイオティクスを取り入れるというアプローチをおすすめいたします。
痛みの症状や妊娠のご希望、お体の状態について不安のある方は、ぜひ一度ご相談ください。
※当院で取り扱っているプロバイオティクス・サプリメントの詳細については、下記よりご確認いただけます。
可能性がございます。
お電話受付終了時間 月~金 18:30/土曜 17:30/祝日 13:30