顕微授精(ICSI)の方が高度だから妊娠率も高いとは限らない?体外受精(IVF)との違いと正しい選択法
体外受精(ART)の選択肢には、卵子と精子を同じ培養液に入れて自然な受精を促す「通常の体外受精(conventional IVF)」と、1個の精子を細い針で卵子の中に直接注入する「顕微授精(ICSI)」の2種類があります。
顕微授精は、精子の数や運動率に課題がある重度の男性不妊に対して非常に有効な治療法です。そのため、患者様の中には「より技術的に高度な方法だから、顕微授精を選んだ方が受精率や妊娠率も高くなるのではないか」とお考えになる方も少なくありません。
しかし、最新の医学的データを見ても、本当にそう言えるのでしょうか。
最新研究が示す「体外受精(IVF)」と「顕微授精(ICSI)」の比較結果
2025年に国際的な医学誌『Nature Medicine』に掲載された重要なランダム化比較試験(RCT)のデータをご紹介します。
この研究では、重度の男性不妊因子を持たない824名の患者様を対象に、顕微授精(ICSI)を行うグループと通常の体外受精(IVF)を行うグループに無作為に分けて比較検証を行いました。
1. 累積出生率の比較
最も重要とされる「1回の採卵から得られた胚による累積出生率」は以下の結果となりました。
- 顕微授精(ICSI)群: 43.2%
- 通常の体外受精(IVF)群:47.3%
顕微授精を行ったからといって、出生率が高くなるという結果は示されませんでした。
2. 受精率および完全受精障害(TFF)の比較
さらに興味深いことに、採卵した卵子あたりの正常受精率は、ICSI群の53.5%に対して通常のIVF群は58.1%でした。
また、すべての卵子が受精しない完全受精障害(total fertilization failure:TFF)の発生率においても、ICSI群が4.8%、通常のIVF群が3.7%であり、顕微授精を選択することで明確に減少するわけではないことが確認されました。
どちらを選択すべきか?一人ひとりに合わせた使い分けが重要
もちろん、この研究結果は「顕微授精が不要である」という意味ではありません。精子の数や運動性が著しく低下している重度男性不妊などの症例においては、顕微授精は欠かすことのできない極めて重要な治療技術です。
一方で、通常の体外受精で十分に受精が期待できる状態であるにもかかわらず、「受精しなかったらどうしよう」という不安から一律に顕微授精を選択しても、それによって出生率が上がるという明確な根拠はこの研究では示されませんでした。研究者たちも、重度の男性因子がない患者様においては、顕微授精よりも通常の体外受精を第一選択として検討すべきだと結論づけています。
当院が考える「受精方法の選び方」
この研究データは、私たちに「より高度な治療を行えば、必ず結果が良くなるとは限らない」という大切な視点を改めて教えてくれます。
治療において本当に重要なのは、「体外受精と顕微授精のどちらが優れているか」という比較ではありません。
- 精子の状態(数・運動率・形態など)
- 採卵できた卵子の数と質
- これまでの受精結果や治療経過
これらを総合的に見極め、「その患者様に今、本当に必要な受精方法を選択すること」です。
顕微授精が必要な方には確かな技術で対応し、通常の体外受精で十分な方にはできるだけ自然なプロセスでの受精を選ぶ。この適切な使い分けこそが、患者様の身体的・経済的負担を抑えつつ、最善の結果へつなげる鍵だと考えています。
当院では、患者様お一人おひとりのデータとご希望に丁寧に向き合い、最も適した治療プランをご提案しております。受精方法について不安やご質問がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考文献】
Berntsen S, Zedeler A, Nøhr B, et al. IVF versus ICSI in patients without severe male factor infertility: a randomized clinical trial. Nature Medicine. 2025;31:1939–1948.

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