AIで胚の「代謝」を見る時代へ — 非侵襲的な胚評価の可能性
2026年に『Human Reproduction』に掲載された、生殖医療における代謝イメージングとAIの可能性をまとめた興味深いレビューをご紹介します。
現在、卵子や胚の評価は形態評価が中心で、必要に応じてPGT-Aなどの遺伝学的検査が行われています。しかし染色体が正常と評価された胚でも必ず着床するわけではなく、染色体以外の要因も胚の発育能に関係していると考えられています。そこで注目されているのが、胚の「代謝」を非侵襲的に評価する方法です。
代謝イメージングの仕組み(自家蛍光を利用した非侵襲評価)
代謝イメージングでは、細胞内に存在するNAD(P)HやFADが発する自家蛍光を利用します。これらは細胞のエネルギー産生やミトコンドリア機能、酸化還元状態と関係しているため、卵子や胚から細胞を採取することなく、その代謝状態を光学的に捉えられる可能性があります。

卵子・胚・精子における代謝イメージングの概念
Figure 1では、NAD(P)HとFADによる代謝評価の原理と、卵子から胚盤胞へ発育する過程で代謝がどのように変化するかが示されています。初期胚ではピルビン酸や乳酸への依存度が高く、発育が進むにつれてグルコース利用、解糖系、酸化的リン酸化などが活発になります。胚盤胞では栄養外胚葉と内部細胞塊の間にも代謝の違いがみられる可能性があります。

卵子から胚盤胞までの代謝変化
Table 2では、卵子・受精卵、2~4細胞期、8細胞期、桑実胚、胚盤胞へと発育する過程におけるNAD(P)HやFADの変化が整理されています。胚は発育とともに単純に代謝が活発になるだけではなく、その代謝様式そのものが変化していくことが分かります。ただし、この表の一部は現時点では仮説であり、確立した臨床指標ではありません。

正常胚と異数性胚における代謝パターンの違い
さらに興味深いのは、正常胚と異数性胚の間で異なる代謝パターンが報告されていることです。FLIMなどを用いた研究では、ヒト胚でも両者の代謝シグナルに違いが認められています。ただし、代謝イメージングから染色体数を直接診断できるわけではなく、現時点ではPGT-Aを置き換える検査ではありません。
代謝イメージングとAIによる将来の胚評価
Figure 2では、研究用の代謝イメージング装置から得られた情報をAIで解析し、卵子、胚、精子の評価につなげる将来像が示されています。NAD(P)HやFADの強度や分布、胚内部の代謝の不均一性など、人間の目だけでは判断が難しい情報をAIが統合し、胚の優先順位などの臨床判断を補助することが想定されています。

「quiet embryo hypothesis(静かな胚仮説)」と胚の代謝状態
この論文で特に興味深いのは、代謝が最も活発な胚が必ずしも最も良い胚ではないという考え方です。以前から「quiet embryo hypothesis」が提唱されており、良好な胚には適切な代謝範囲が存在する可能性があります。将来的には形態や発育速度だけではなく、胚がどのような代謝状態にあるのかまで含めて評価する時代になるのかもしれません。
まとめ:次世代の胚評価技術へ向けて
現在の胚評価は主として「形を見る」方法ですが、代謝イメージングは「胚がどのような状態で活動しているのか」を非侵襲的に見る方法とも言えます。まだ研究段階であり、臨床応用には安全性、標準化、大規模な検証が必要ですが、AIとの組み合わせによって将来の胚選択を変える可能性を持つ技術として注目されます。
【論文情報】
Fabrizzio Horta, Denny Sakkas, Shannon Handley, et al. “Metabolic imaging for gamete and embryo assessment through advanced microscopy technologies: a novel avenue for artificial intelligence?” Human Reproduction. 2026;41(9):1470–1481.
可能性がございます。
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