PPOS法で胚の染色体正常率は低下する?PGT-AのRCTでGnRHアンタゴニスト法と比較
体外受精の卵巣刺激では、採卵前に排卵してしまうことを防ぐ必要があります。
一般的にはGnRHアンタゴニスト法が広く用いられていますが、近年は黄体ホルモン製剤を内服してLHサージを抑える「PPOS法(Progestin-Primed Ovarian Stimulation)」も広く行われています。
PPOS法は内服薬を使用するため比較的簡便な卵巣刺激法ですが、一方で「刺激中に黄体ホルモンを使用することで、卵子や胚の質、特に胚の染色体正常率に影響しないのか」という疑問がありました。
今回、Human Reproduction Openに、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を行う女性400名を対象として、PPOS法とGnRHアンタゴニスト法を比較したランダム化比較試験(RCT)が報告されました。
PPOS法とGnRHアンタゴニスト法を400名で比較
研究では、対象となった1,008名から適格性を確認し、最終的に400名を、
・PPOS群:200名
・GnRHアンタゴニスト群:200名
に無作為に割り付けました。
対象は43歳未満の女性で、PGT-Aの適応は、高年齢、反復流産、反復着床不全、過去の妊娠における胎児染色体異常などでした。
PGT-AはNGS(次世代シーケンシング)を用いて行われています。
PPOS法でも胚の染色体正常率に有意差は認められなかった
今回、最も重要なのが胚の染色体正常率です。
採卵数は、
・PPOS法:11個
・GnRHアンタゴニスト法:10個
成熟卵数は、
・PPOS法:8.5個
・GnRHアンタゴニスト法:8.0個
でした。
受精卵数はいずれも7個、胚盤胞数はいずれも3個で、明らかな差は認められませんでした。
正常胚数も両群とも中央値1個でした。
そして最も注目される「正常胚率」は、
・PPOS法:40.0%
・GnRHアンタゴニスト法:44.4%
で、統計学的な有意差は認められませんでした。
異数性胚率やモザイク胚率についても、両群で有意な差は認められていません。
つまり今回の研究では、PPOS法を使用したことでPGT-Aにおける胚の染色体正常率が低下するという結果は示されませんでした。
採卵数や胚盤胞数にも明らかな差はなし
PPOS法では、刺激開始日から採卵のトリガー日までジドロゲステロン20mgを内服しています。
興味深いことに、PPOS群ではGnRHアンタゴニスト群より使用したゴナドトロピン総量が少なく、一方でトリガー日のエストラジオールとLHは高値でした。
しかし、
・採卵数
・成熟卵数
・受精卵数
・胚盤胞数
には明らかな差はありませんでした。
黄体ホルモンを用いてLHサージを抑えるという異なる方法をとっても、最終的に得られる胚の染色体正常性には明らかな悪影響が認められなかったことになります。
PPOS法とGnRHアンタゴニスト法で妊娠率・出生率にも差はなし
PGT-Aで正常と判定された胚を1個移植した、最初の凍結融解胚移植についても比較されています。
臨床妊娠率は、
・PPOS法:56.6%
・GnRHアンタゴニスト法:52.6%
出生率は、
・PPOS法:42.7%
・GnRHアンタゴニスト法:44.7%
で、いずれも有意差は認められませんでした。
継続妊娠率、流産率、異所性妊娠率についても両群で有意差は認められていません。
つまりPPOS法で得られた正常胚は、少なくとも今回の研究では、GnRHアンタゴニスト法で得られた正常胚と同程度の妊娠・出生成績を示しました。
PPOS法では原則として全胚凍結が必要
PPOS法には一つ大きな特徴があります。
黄体ホルモンを使用するため、その採卵周期に新鮮胚移植を行うことはできず、原則として全胚凍結が必要になります。
そのため、すべての患者さんにPPOS法が適しているわけではありません。
一方、PGT-Aではもともと胚盤胞を生検した後に凍結するため、PPOS法との相性は非常に良いと考えられます。
また、卵子凍結など、最初から新鮮胚移植を予定していない治療でもPPOS法は選択肢になります。
今回の研究で分かったこと
今回の研究はランダム化比較試験であることに大きな意味があります。
これまでPPOS法と胚の染色体正常率については、後ろ向き研究を中心に結果が一致していませんでした。
しかし今回のRCTでは、PPOS法によって正常胚率が低下するという結果は認められませんでした。
ただし、400名という研究規模では10%未満の小さな差を否定することはできません。
また、評価されているのは最初の胚移植の結果であり、累積出生率までは評価されていません。
さらにPGT-Aを行った患者さんを対象とした研究であるため、一般的なすべての体外受精患者さんにそのまま当てはめられるわけではありません。
今回の研究を一言で言うと、
「PPOS法は簡便だけれど、黄体ホルモンを使用することで胚の染色体正常性に悪影響があるのではないか」
という懸念に対して、今回のランダム化比較試験では、その心配を支持する結果は出なかったということです。
PPOS法は簡便だからという理由だけで選択する方法ではありませんが、PGT-Aや卵子凍結など、全胚凍結を前提とする治療では有力な卵巣刺激法の一つと考えられます。
少なくとも今回のランダム化比較試験からは、PPOS法を選択することで胚の染色体正常率が低下することを過度に心配する必要性は低いと考えられます。
参考文献
He Li, Min Yu, Wenbi Zhang, Junling Chen, Hua Chen, Xiang Lu, Lu Li, Ernest Hung Yu Ng, Xiaoxi Sun. Comparing the euploidy rate between the progestin-primed and gonadotrophin releasing hormone antagonist protocols in preimplantation genetic testing for aneuploidy: a randomized controlled trial. Human Reproduction Open. 2026; hoag081. doi:10.1093/hropen/hoag081
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