不妊治療・体外受精で出産時の子宮摘出リスクは高くなる?約1,674万件の出産を調べた最新研究
体外受精などの不妊治療によって妊娠した場合、自然妊娠と比べて妊娠中や出産時の合併症が増える可能性が指摘されています。
今回、医学誌「Fertility and Sterility」に、不妊治療後の妊娠と出産時の子宮摘出リスクとの関係を調べた大規模研究が掲載されました。
米国で2000年から2020年までに行われた約1,674万件の出産を解析し、そのうち85,321件が不妊治療に関連する妊娠でした。
本研究では、不妊治療後の妊娠における子宮摘出リスクや、年齢、胎盤の異常、産後出血との関係について詳しく検討されています。
出産時の子宮摘出とは?不妊治療後の妊娠との関係
出産時の子宮摘出とは、大量出血や胎盤の異常などによって、母体の命を守るために子宮を摘出する手術です。頻度は低いものの、非常に重大な出産時の合併症です。
今回の研究では、不妊治療後の妊娠で10万人あたり426件、自然妊娠では184件の子宮摘出が認められました。
年齢や多胎妊娠などの要因を調整した後も、不妊治療群では出産時の子宮摘出のオッズが33%高いという結果でした。
この結果は、不妊治療後の妊娠では、自然妊娠と比較して出産時の子宮摘出リスクが高い傾向にあることを示しています。
不妊治療後の妊娠で注意したい胎盤異常と出産時の合併症
Table 1では、不妊治療群と自然妊娠群の患者背景が比較されています。


不妊治療群では、高年齢妊娠、多胎妊娠、帝王切開が多く、胎盤の異常も自然妊娠群より多く認められました。
特に、前置胎盤、癒着胎盤、常位胎盤早期剥離などは、出産時の大量出血や子宮摘出につながる可能性がある重要な合併症です。
これらの胎盤異常は母体の安全に関わるため、不妊治療によって妊娠した場合には、妊娠中から胎盤の状態を適切に評価することが重要になります。
年齢別にみた不妊治療後の子宮摘出リスク
Table 2では、年齢別の子宮摘出リスクが示されています。

30〜34歳では不妊治療群の子宮摘出オッズが1.55倍、35〜39歳では1.26倍、40〜44歳では1.46倍でした。
また、実際の子宮摘出頻度は年齢が高くなるほど増加していました。
つまり、不妊治療を受けた方では、年齢の影響を考慮しても子宮摘出リスクの上昇が認められたということです。
高年齢での妊娠・出産では、年齢そのものに伴うリスクに加え、不妊治療歴も考慮した妊娠管理が重要になると考えられます。
胎盤に異常がない場合でも子宮摘出リスクは高くなる?
Table 3では、胎盤の異常の有無によって比較しています。

興味深いことに、前置胎盤や癒着胎盤などの異常が記録されていない場合でも、不妊治療群では子宮摘出の調整後オッズが1.40倍でした。
一方、胎盤異常を伴う子宮摘出では1.16倍でしたが、統計学的に明確な差は認められませんでした。
この結果から、胎盤の異常だけでは、不妊治療後の妊娠における子宮摘出リスクの上昇を十分に説明できない可能性があります。
産後出血と子宮摘出リスクの関係
Table 4では、産後出血と子宮摘出リスクとの関係が検討されています。

産後出血を伴う子宮摘出は不妊治療群で1.40倍、産後出血が記録されていない場合でも1.28倍でした。
この結果から、出産時の大量出血だけでなく、ほかの要因も子宮摘出リスクの上昇に関係している可能性が考えられます。
体外受精などの生殖補助医療(ART)でもリスク上昇が認められた
さらに、体外受精などの生殖補助医療(ART)に限定した解析でも、子宮摘出の調整後オッズは1.40倍でした。
ただし、この研究では、新鮮胚移植と凍結融解胚移植の違いや、ホルモン補充周期と自然周期の違いまでは検討できていません。
また、過去の出産歴、BMI、子宮手術歴などの情報が不足しており、不妊治療そのものが子宮摘出を引き起こしたと断定することはできません。
そのため、今回の研究結果は、不妊治療と子宮摘出リスクの関連を示したものであり、治療そのものが直接的な原因であると証明したものではない点に注意が必要です。
不妊治療後の妊娠で大切なのは、適切な妊娠管理と出産への備え
今回の研究で大切なのは、不妊治療で妊娠した方が必要以上に心配することではなく、妊娠後の管理を適切に行うことです。
出産時の子宮摘出はまれな合併症ですが、不妊治療後の妊娠では、胎盤の位置や付着異常、出血のリスクなどを慎重に評価する必要があります。
特に、高年齢妊娠、帝王切開歴、子宮手術歴などがある場合には、産科医と十分に相談し、必要に応じて高度な周産期医療に対応できる施設で出産することが大切だと思います。
まとめ 不妊治療は妊娠成立だけでなく、安全な出産まで考えることが重要
この論文が伝える最も重要なメッセージは、不妊治療の目標は妊娠することだけではなく、母子ともに安全に出産を迎えることまで含まれるという点です。
生殖医療専門医としては、妊娠成立後に産科へ紹介する際、不妊治療歴、移植方法、子宮手術歴などを正確に共有し、妊娠中の胎盤評価や分娩施設の選択に役立てることが重要だと思います。
不妊治療後の妊娠に伴うリスクを正しく理解し、適切な妊娠管理と出産への備えを行うことが、母子の安全につながると考えています。
参考文献
Shruthi Thiyagarajan, Mark V. Sauer, Rachel Lee, Cande V. Ananth.Infertility treatment is associated with peripartum hysterectomy: a population-based cross-sectional study.Fertility and Sterility. 2026;126(4):701–711. October 2026.DOI:https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2026.06.019
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