【2025年最新】ESHRE卵巣刺激ガイドライン改訂の要点|個別化医療の重要性
今回は、2025年に更新されたESHRE(欧州ヒト生殖医学会)による「IVF/ICSIにおける卵巣刺激ガイドライン」の最新版について解説します。
本論文は、現時点で最も体系的かつ網羅的に卵巣刺激の最適化を整理したものであり、不妊治療の標準治療を再定義する極めて重要な内容となっています。
1. ガイドラインの全体像:アウトカム重視の設計
今回のアップデートでは合計121の推奨が提示されており、2019年版から大幅な刷新が行われました。
- 有効性の指標: 累積生児獲得率
- 安全性の指標: 中等度以上のOHSS(卵巣過剰刺激症候群)発症率
単なる「採卵数」を追うのではなく、最終的な出産(アウトカム)と患者様の安全を最重視する設計へと明確にシフトしています。

また、本ガイドラインの大きな特徴は、「エビデンスの質の低さ」を明確に認めている点にあります。高品質なエビデンスに基づく推奨は実は少なく、多くが低〜極めて低いエビデンスに依拠しています。これは、ガイドラインを画一的に適用するのではなく、臨床現場における「個別化」が不可欠であることを強く示唆しています。
2. 刺激前評価:卵巣予備能と妊娠予測の切り分け
刺激前の評価において、卵巣反応性の予測因子としてAMH(アンチミューラリアンホルモン)またはAFC(胞状卵胞数)の使用が強く推奨されています。
一方で、基礎FSHやLH、エストラジオールなどは予測因子として推奨されていません。重要なのは、これらの指標を「妊娠や生児獲得の予測」に使用すべきではないと明記された点です。
「卵巣予備能(卵子の在庫)」と「妊娠予測」は明確に切り分けて考えるべきであり、年齢とBMIのみが妊娠予測因子として有用であると強調されています。

3. 刺激プロトコール:「用量を上げれば良い」という誤解
刺激戦略は「低反応・正常反応・高反応」の3群に分けて整理されています。
- 高反応例: GnRHアンタゴニスト法が第一選択。ゴナドトロピンは100〜150IU程度の低用量を推奨。
- 低反応例: 300IU以上の高用量投与は推奨されない。
ここから読み取れる最も重要なポイントは、「用量を上げれば結果が良くなるわけではない」という事実です。
さらに、刺激途中での薬剤の増減(用量調整)も有効性の向上に寄与しないとして明確に否定されており、「開始用量の設定」がいかに重要であるかが日常診療への示唆として示されています。
4. 下垂体抑制とトリガー:安全性の追求
下垂体抑制法については、全体としてGnRHアンタゴニスト法がアゴニスト法よりも安全性の面で優れており、一般的に推奨されています。特に高反応例では、OHSS予防の観点からアンタゴニスト法が第一選択と位置付けられました。

また、トリガー(最終成熟)とホルモン測定についても従来の慣習を見直す提言がなされています。
- タイミング: 16〜22mmの主席卵胞が複数確認される時点が一般的だが、明確な基準はなく症例ごとの判断が必要。
- ホルモン測定: 当日の測定はプロゲステロンのみ条件付きで推奨。エストラジオールやLHは不要。
5. OHSS予防と補助療法への厳格な評価
OHSS予防は本ガイドラインの核心部分です。高反応例では、GnRHアゴニストトリガーと全胚凍結(freeze-all)の併用が最も強く推奨されています。さらにドパミン作動薬の併用など、多層的な対策が有効とされています。
一方で、補助療法(サプリメント等)に関しては極めて厳しい評価が下されました。
- 非推奨(または条件付き非推奨): 成長ホルモン、DHEA、テストステロン、ミオイノシトール、メトホルミン等
臨床現場で広く行われている介入の多くが、現時点のエビデンス的には支持されていないという事実は、真摯に受け止めるべきポイントです。
6. 結論:曖昧な概念を排した「真の個別化」へ
本ガイドラインの最も重要なメッセージは、「個別化」に集約されます。
低反応群は非常に不均一な集団であり、一律の治療戦略は存在しません。また、今回「mild stimulation(マイルド刺激)」という曖昧な概念が削除されたことも特筆すべき点です。これからは、明確な用量設定と反応評価に基づく治療が求められています。
今回の改訂は、用量調整の否定、補助療法の否定、全胚凍結戦略の強化など、従来の慣習に再考を迫る内容となっています。当院ではこの最新知見を指針としつつ、患者様一人ひとりに最適な個別化医療を提供してまいります。
出典:ESHRE guideline: ovarian stimulation for IVF/ICSI: an update in 2025
Human Reproduction, 2026, 41(4): 498–514
可能性がございます。
お電話受付終了時間 月~金 18:30/土曜 17:30/祝日 13:30