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院長コラム

流産手術は本当に安全か―繰り返し手術で見えてきた将来妊娠への影響

流産手術は本当に安全か―繰り返し手術で見えてきた将来妊娠への影響
INDEX 目次


流産手術・帝王切開は将来の妊娠に影響するのか

流産手術や帝王切開が、その後の妊娠にどの程度影響するのかは、患者さんから非常によく質問を受けるテーマです。しかし実際には、「長期的に将来の流産率へどう影響するのか」を検討したデータは多くありません。

今回ご紹介する論文は、反復流産患者1,473人を対象に、流産手術や帝王切開歴と、その後の流産リスクとの関連を解析した大規模多施設コホート研究です。

子宮内操作がもたらす潜在的リスク

近年、子宮内操作によって子宮内癒着(Asherman症候群)が生じる可能性や、子宮内膜機能障害、帝王切開瘢痕部(niche)形成などが注目されています。

特に重要なのは、「流産手術後に最大20%で子宮内癒着が起こる可能性がある」という点です。また帝王切開後にも癒着や瘢痕形成が起こり得ることが述べられています。

この研究では、反復流産患者を前向きに追跡し、「登録後最初の妊娠」で再び流産したかどうかを解析しています。


ページ4のTable 1がこの論文の中心です。

「一度の流産手術で将来が悪くなる」は本当?

まず非常に重要なのは、「流産手術歴が1回や2回程度では、明確な流産リスク増加は認めなかった」という点です。これは患者説明上かなり重要です。

つまり、「一度の流産手術で大きく将来が悪くなる」とは言えなかったわけです。


しかし一方で、サブグループ解析では重要な結果が出ています。

ページ5のTable 3では、「3回以上の流産手術歴」がある女性では、その後の流産リスクが約50%上昇していました。これはかなり大きな差です。

つまり、「手術回数が増えるほどリスクが蓄積する可能性」が示唆されたわけです。

繰り返す流産手術とその後の妊娠への影響

さらに重要なのが帝王切開です。

ページ4のTable 1では、帝王切開歴がある女性では、その後の流産リスクが31%上昇していました。さらに、「3回以上の流産歴」を持つ女性に限定すると、帝王切開歴による流産リスク増加は約50%まで上昇していました。

子宮内の環境変化が妊娠に与える影響

ページ5〜6のDiscussionでは、この結果についてかなり興味深い考察がされています。

著者らは、「子宮内膜環境へのダメージ」が重要なのではないかと考察しています。

具体的には、子宮内癒着形成、内膜受容能低下、内膜炎症、子宮内膜マイクロバイオーム変化、帝王切開瘢痕形成などが候補として挙げられています。特に近年、帝王切開瘢痕部(niche)が着床環境へ影響する可能性が注目されています。

流産手術とPOC検査成功率の関係

また、この論文では「流産手術のメリット」についても触れられています。ページ5では、POC染色体検査の成功率が、手術管理では高かったことが示されています。

手術管理では「胎児組織なし」が9%だった一方、待機管理や薬物管理では24〜29%でした。つまり、手術管理はPOC解析には有利という側面があります。これは実臨床で非常に重要です。

特に反復流産診療では、POC解析は極めて重要な情報になります。

そのため、この論文は単純に「手術が悪い」と述べているわけではありません。著者らも、「患者がどの方法を選ぶかは尊重されるべき」と強調しています。

ただし、「繰り返しの子宮内操作」が将来的な子宮内膜環境へ影響する可能性は、十分考慮すべきという立場です。

研究の限界と、それでも得られる重要な教訓

また、この研究は非常に慎重でもあります。自己申告ベースであること、手術方法の詳細が不明なこと、妊娠率ではなく妊娠後流産率を見ていることなどの限界も述べられています。

つまり、「妊娠できなくなった人」は解析に含まれていない可能性があります。

それでも、この論文の臨床的インパクトはかなり大きいと思います。特に反復流産患者では、「必要以上の子宮内操作は避ける」という考え方を支持するデータになっています。

研究結果をどう読み解くべきか

一方で、POC解析や大量出血対応など、手術が必要な場面も当然あります。つまり重要なのは、「必要な手術は行うが、不必要な反復手術は慎重に考える」というバランスです。

近年、子宮内膜受容能や内膜環境への関心が高まる中、この論文は「子宮内操作の累積影響」という非常に重要な視点を示した研究だと思います。

参考文献
Fertility and Sterility
Pregnancy outcomes in a recurrent miscarriage population after common uterine surgeries: a multicenter cohort study
2026; Vol.125 No.5: 895–903

まとめ:リスクとメリットを踏まえた流産手術の考え方

大切なのは、「流産手術を1回受けたから次の妊娠が悪くなる」という単純な話ではなかった点です。この研究では、1回や2回の流産手術では明らかな流産リスク上昇は認めませんでした。
一方で、3回以上の流産手術歴がある場合や、帝王切開歴がある場合には、その後の流産リスクが上がる可能性が示されました。

つまり、必要な流産手術を避けるべきという論文ではありません。むしろ、POC染色体検査を確実に行うためには手術が有利な場面もあります。ただし、反復流産患者では子宮内操作が積み重なることで、子宮内癒着や内膜環境の変化が起こる可能性があります。

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