CD138陽性は本当に慢性子宮内膜炎なのか?流産との関係と診断の妥当性を再考する
不妊治療や反復流産の原因調査において、近年「慢性子宮内膜炎」が大きな注目を集めています。
その診断指標として広く普及しているのが「CD138」というマーカーです。
しかし、現在行われているCD138検査の診断基準や、それに基づく治療方針には、医学的な観点から慎重な検討が必要な場面も少なくありません。
今回は、CD138と慢性子宮内膜炎、そして流産との関係に新たな一石を投じる重要な論文をご紹介します。
1. CD138陽性=慢性子宮内膜炎という定義の揺らぎ
従来、子宮内膜にCD138(形質細胞のマーカー)が認められると「慢性子宮内膜炎」と診断され、抗生剤による治療が行われるのが一般的でした。
しかし、今回ご紹介する研究(Human Reproduction, 2026)では、この前提自体に疑問が示されています。
正常な子宮内膜にもCD138は存在する
研究によると、CD138はそもそも正常な子宮内膜にも存在しており、さらに月経周期に応じてその発現量が大きく変動することが明らかになりました。
事実、700例以上の反復流産患者を対象とした調査では、約70%という非常に高い割合でCD138陽性が確認されています。
これほど高頻度に見られる所見を、すべて「異常」や「病的な炎症」と片付けてしまって良いのか、再考の余地があります。

2.診断のばらつきを生む「3つの染色パターン」
本論文のFigure 2(ページ7)では、CD138の染色像が以下の3つのパターンに分類できることが示されています。
・点状の膜様パターン
・びまん性パターン
・混合型(上記の両方)
この染色パターンの多様性こそが、診断のばらつきを生んでいる可能性があります。
どのパターンを「陽性(異常)」と見なすかによって診断結果が左右されるため、CD138の色だけで画一的に炎症と判断することの難しさを物語っています。

3. CD138が示すのは「炎症」ではなく「内膜の成熟度」?
本研究では、CD138の正体を探るために複数の角度から解析が行われました。
・形質細胞との不一致
本来の形質細胞マーカーである「CD19」と「CD138」を比較したところ、両者の発現は必ずしも一致しませんでした。つまり、CD138が陽性だからといって、そこに必ずしも炎症細胞(形質細胞)が存在するわけではないことを示唆しています。

・月経周期による変化
CD138の発現は増殖期(卵胞期)に高く、分泌期(黄体期)に低下するという生理的なリズムを持っていました。

・子宮内膜の成熟遅延との関連
最も注目すべき点は、CD138が強く発現している症例ほど、子宮内膜の成熟が遅れている(着床の窓のズレに関連する)傾向があったことです。
これらのデータから、CD138は「細菌による炎症」の指標というよりも、「子宮内膜の成熟状態やタイミング」を反映している可能性が高いと考えられます。

4. 「慢性子宮内膜炎=感染症」という考え方の再検討
慢性子宮内膜炎の原因は細菌感染であると考えられ、多くの施設で抗生剤が処方されています。
しかし、本研究における細菌叢(マイクロバイオーム)解析では、CD138の有無と細菌の構成に明確な関連は認められませんでした。

もちろん、炎症性サイトカインの変化は見られますが、これも細菌感染によるものというよりは、内膜の成熟が遅れていることに伴う変化であると推察されています。
5. 臨床における今後の課題:安易な抗生剤治療への警鐘
この研究結果は、今後の不妊治療・不妊検査のあり方に大きな影響を与えます。
1.診断の慎重な判断
CD138陽性=即、慢性子宮内膜炎と診断する図式は見直されるべきかもしれません。
2.抗生剤治療の妥当性
原因が細菌ではない場合、抗生剤を繰り返し服用しても根本的な解決にならない可能性があります。
3.新しい視点の重要性
炎症の有無だけでなく、子宮内膜の成熟度や着床のタイミング(ウィンドウ)という視点からアプローチすることが、流産防止や妊娠率向上への鍵となる可能性があります。
結論:原因を正しく見極めることが大切です
論文の結論でも述べられている通り、CD138に基づく診断や治療は、現時点ではまだ研究段階の側面があり、日常診療で安易に用いるべきではありません。
当院では、常に最新の知見を取り入れ、患者様一人ひとりの状態が「真の炎症」なのか、「内膜の成熟の問題」なのかを冷静に判断し、最適な治療をご提案できるよう努めてまいります。
紹介文献
CD138 expression in the endometrium associates with endometrial timing and inflammatory status but not microbiota composition
Human Reproduction, 2026; Vol.41 No.5: 699–711
可能性がございます。
お電話受付終了時間 月~金 18:30/土曜 17:30/祝日 13:30