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院長コラム

【不妊治療と免疫】Th1/Th2が高い場合、タクロリムスは16日間より長く飲んだ方が効果はある?

【不妊治療と免疫】Th1/Th2が高い場合、タクロリムスは16日間より長く飲んだ方が効果はある?
INDEX 目次

こんにちは。両角レディースクリニック院長の両角です。


当院には、着床不全や不育症、免疫異常に関するご相談が多く寄せられます。今回は、患者さんからいただいた非常に重要なご質問について、科学的根拠(エビデンス)を交えて詳しく解説します。


【患者さんからのご質問】

「Th1/Th2比がかなり高い場合、タクロリムスは16日間より長く飲んだ方が効果があるのでしょうか?」


非常に良いご質問です。結論から申し上げます。


現時点では「16日間より長く投与した方が妊娠率や出産率が向上する」という十分な科学的根拠(エビデンス)はありません。


一方で、「長く投与すると体に有害である」という明確なデータもありません。つまり、現時点での正しい答えは「長く続けた方が良いかどうかは、まだ分かっていない」ということになります。


1.現在の標準治療:先進医療Bで検証された「16日間プロトコール」とは?

現在、当院で採用しているタクロリムスの投与方法は、国立成育医療研究センターを中心として実施された先進医療Bで検証されたプロトコール(治療計画)に基づいています。


この研究では、以下のような方法で有効性と安全性が評価されました。

  • 投与期間: 胚移植の2日前から開始し、移植後を含めて合計16日間投与
  • 投与量: 1日2mgまたは4mgを内服


【臨床研究の結果】

臨床的妊娠率は低用量群(2mg/日)で66.7%、高用量群(4mg/日)で55.6%と報告されました。また、安全性についても重篤な副作用(有害事象)は認められませんでした。


つまり、現在科学的に「有効性と安全性が確認されている」のは、この16日間のプロトコールなのです。


2.16日間を超えて「長期投与」するメリット・デメリット

では、16日間を超えて、妊娠初期や妊娠中期までタクロリムスを継続した方が良いのでしょうか?

長期投与を支持する考え方

一部の医療施設では、妊娠初期までタクロリムスを継続しているという報告もあります。免疫異常は着床の瞬間だけでなく、その後の「胎盤形成」にも関与する可能性があるため、長く飲んだ方が良いのではないかという考え方に基づいています。

しかし、16日間投与と比較して、長期間投与の方が生児獲得率(無事に出産できる確率)を改善したり、流産率を低下させたりすることを証明した質の高い臨床試験は、現時点では存在しません


長期投与による副作用のリスク

タクロリムスは「免疫抑制薬」です。短期間・低用量であれば安全性は高いと考えられていますが、投与期間が長くなれば、以下のような副作用リスクが理論的には高くなります。

  • 腎機能障害
  • 高血圧
  • 耐糖能異常(血糖値の上昇)
  • 感染症のリスク


さらに、妊娠中も継続する場合には、「いつ中止するのか」「血中濃度を測定するのか」「妊娠中の管理は誰が(産科医か生殖医療医か)行うのか」といった新たな課題も生じます。実際に当院が他大学の先生方と相談した際にも、妊娠中の継続については施設ごとに考え方が異なっていました。


3.当院が「16日間」にこだわる理由と、これからの不妊治療

そのため当院では、安全性と科学的根拠(エビデンス)を最重視し、先進医療Bで検証された「16日間プロトコール」を採用しています


もちろん、今後の医療の発展によって研究が進み、「長期間投与した方が出産率が向上する」という明確な根拠が示されれば、当院の治療方針も柔軟に変えていく可能性があります。しかし現時点では、「長く飲むほど効果が高い」とは言えません。


タクロリムスのような先進的な治療だからこそ、「より多く」「より長く」使用するのではなく、「科学的根拠のある範囲で、安全に適切に使用する」ことが、患者さまと未来の赤ちゃんを守るために最も重要であると考えています。


不安なことや疑問があれば、いつでも診察時にご相談ください。


【参考資料】
・厚生労働省 第180回先進医療技術審査部会 資料2-1「タクロリムス経口投与療法(先進医療B)総括報告書」
・Hisano M, Nakagawa K, Ono M, Yoshino O, Saito T, Hirota Y, Inoue E, Imai S, Kikuchi K, Nakamura H, Yamaguchi K. 
Efficacy of tacrolimus treatment in two-dose single-group controlled trial for patients with refractory infertility.
Journal of Reproductive Immunology. 2026;175:104904. doi:10.1016/j.jri.2026.104904.


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