患者さんの大切な胚を守るために ~液体窒素発生装置を導入します~
先日、日本受精着床学会の企業展示にて「液体窒素発生装置」を見学し、メーカーの担当者様から詳しい技術説明を受けてきました。
当院では、東京駅前への移転に伴い、この液体窒素発生装置を新クリニックへ導入することを決定いたしました。

1.生殖医療における「液体窒素」の重要性とは?
「液体窒素発生装置」という言葉を初めて耳にする方も多いかもしれません。しかし、不妊治療・生殖医療の世界において、液体窒素は欠かすことのできない非常に重要な役割を担っています。
患者様からお預かりした大切な胚(受精卵)や卵子は、約−196℃の液体窒素の中で厳重に保存されています。何度も通院し、採卵というハードルを乗り越えてようやく得られた卵子や受精卵は、患者様にとってかけがえのない宝物です。
私たち不妊治療クリニックには、その大切な生命の芽をどのような状況であっても安全に守り続ける重い責任があります。
2.なぜ今、自院で液体窒素を作る体制が必要なのか
現在、多くの不妊治療施設では専門業者から定期的に液体窒素を購入・補充しています。当院もこれまでは同様の体制をとってきました。
日常の運用においては何ら問題ありませんが、大規模な地震や台風などの自然災害が発生した際、物流がストップして液体窒素の配送が受けられなくなるリスクが存在します。
事実、東日本大震災の際には、長時間の停電や交通網・物流の混乱により、多くの医療機関が通常通りの診療や保管体制を維持することに苦慮しました。
この教訓から当院では、「万が一の災害時にも、外部の供給網に頼らず自ら液体窒素を生成できる体制」こそが、患者様の大切な凍結胚・卵子を守る鍵になると考えるに至りました。
3.移転先の「東京駅前」で実現する72時間のBCP(事業継続計画)対策
今回導入する装置は、空気中の窒素を集めて液体窒素を自動製造するシステムです。外部からの定期配送が途絶えた場合でも、院内で液体窒素を作り続けることができます。
さらに、移転先となる東京駅前の新しいビルTOFROM YAESU(トフロム ヤエス)には、高度な非常用発電設備が完備されています。この液体窒素発生装置をビルの非常用電源回路へ直接接続する設計といたしました。
これにより、万が一東京電力からの電力供給が完全に停止した場合でも、ビルの非常用発電によって約72時間は自動で液体窒素を作り続けることが可能になります。
4.災害直後の最も重要な72時間を乗り切る意味
もちろん、この装置を入れるだけで災害対策のすべてが完了するわけではありません。
しかし、災害発生直後の「最も混乱し、外部支援が届きにくい最初の72時間」を自力で乗り切れることは、胚や卵子の安全を確保する上で決定的な意味を持ちます。この72時間の間に、私たちは追加の液体窒素の調達手配や、その後の保全対応を冷静に進めることができるのです。
5.安全な環境づくりも「医療の質」の一部
今回のクリニック移転は、単に「新しくて広い施設をつくること」だけが目的ではありません。
- 耐震性能に優れた最新の建物構造
- 万全の非常用発電設備
- 自力で生成できる液体窒素発生装置
これらを組み合わせることで、万が一の大災害時であっても診療や保管環境を可能な限り継続し、お預かりした命の可能性を守り抜くクリニックを目指しています。
医療の質とは、妊娠率や最新の治療技術だけで測れるものではありません。どのような予期せぬ事態が起きても、患者様の大切な胚や卵子を守り抜く強固なインフラを整えることも、生殖医療施設としての極めて重要な責務だと考えています。
これからも、患者様に心から安心して治療に専念していただけるよう、安全な環境づくりに最善を尽くしてまいります。

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