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院長コラム

「新鮮胚移植」をもう一度見直す時期に来ているのではないか

「新鮮胚移植」をもう一度見直す時期に来ているのではないか
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現在、日本の体外受精(ART)では「凍結融解胚移植」が圧倒的に多く行われています。日本産科婦人科学会の2024年ARTデータによると、新鮮胚移植が約1.9万周期であるのに対し、凍結融解胚移植は約26.9万周期にのぼり、全体の約94%が凍結融解胚移植という状況です。


胚の凍結保存技術(ガラス化保存法など)が劇的に進歩し、重篤な卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを回避できることから、「採卵後にすべての胚を一度凍結し、後日の周期で移植する(Freeze-all策略)」という方法が全国的に広く普及しました。


しかしここで一度立ち止まって考えてみたいのは、「現在広く行われている一般的な治療」が「すべての患者様にとって最も成果が出る治療」とは限らないということです。


すべての胚を「とりあえず凍結する」ことが最善でしょうか?

特に、高年齢の患者様や低卵巣予備能(AMH低値)で、1回の採卵で獲得できる卵子が1個、2個、3個といった限られた状況にある方にとって、すべての胚を例外なく一度凍結することが本当にベストな選択なのでしょうか。


胚を凍結・融解するプロセスは技術の発展により非常に安全になりましたが、それでも胚にとってはゼロではない環境変化(ストレス)がかかります。また、せっかくの採卵周期に移植を行わないことで、1回分の妊娠のチャンスを先送りにしている側面もあります。


低予後(採卵数が少ない)の方を対象とした最新の研究報告(BMJ 2025年)

この疑問に対して重要な示唆を与える臨床データが発表されました。2025年に国際的に評価の高い医学誌『BMJ(British Medical Journal)』に掲載された大型のランダム化比較試験(RCT)です。


この研究では、体外受精で低予後(卵巣応答が低い・採卵数が少ない)と考えられる838名の患者様を対象に、「新鮮胚移植」を行うグループと「すべて凍結(Freeze-all)後に凍結融解胚移植」を行うグループに分けて治療結果を比較分析しました。


【研究結果の比較】

  • 生児獲得率(1回目の移植):新鮮胚移植 40% vs 凍結融解胚移植 32%
  • 1年間の累積生児獲得率:新鮮胚移植 51% vs 凍結融解胚移植 44%


データが示す通り、低予後の患者様においては、新鮮胚移植を行ったグループの方が有意に良好な妊娠・出産成果を得られる結果となりました。


全員同じ方法ではなく、患者様一人ひとりに合わせた「個別の選択」を

このデータは、「凍結胚よりも新鮮胚の方が絶対に優れている」という意味ではありません。


高刺激で多くの卵子が採れる方やOHSSのリスクが高い方にとっては、全胚凍結による凍結融解胚移植が圧倒的に安全であり有効です。大切なのは、「全員に一律の治療法をあてはめるのではなく、患者様の体質や採卵数に合わせて最適な手法を選択すること」にあります。


「凍結できる技術がある」ことと、「すべての患者様がすべて凍結した方がよい」ことは同義ではありません。


高年齢で採卵数が少なく、一つひとつの胚が非常に貴重な患者様においては、採卵したその周期そのものを貴重な妊娠のチャンスとして活用できる新鮮胚移植という選択肢を、もう一度積極的に検討する価値があります。


一回一回のチャンスを最大限に生かすために

当院では、これまで「当たり前」とされてきた画一的な全胚凍結方針に縛られず、患者様ごとの卵巣予備能や年齢、これまでの治療歴を考慮した個別化治療を大切にしています。


胚への負荷を極力抑え、限られた時間と胚の可能性を最大限に引き出すために、新鮮胚移植も含めた柔軟な治療プランをご提案いたします。現在の治療内容に疑問をお持ちの方や、なかなか結果が出ずにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。


【参考文献】

Wei D, Sun Y, Zhao H, et al. Frozen versus fresh embryo transfer in women with low prognosis for in vitro fertilisation treatment: pragmatic, multicentre, randomised controlled trial. BMJ. 2025;388:e081474.

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