男性の肥満は胚発生と流産率に影響するのか
不妊治療というと、これまで主に女性側の要因が注目されてきました。しかし近年の研究では、男性の健康状態、特に体重や生活習慣が妊娠の結果に影響する可能性があることが分かってきています。最近発表された研究では、男性の肥満が胚の発生や妊娠の経過にどのような影響を与えるのかが詳しく検討されました。
男性のBMIと受精率・胚発生
この研究では、卵子提供によるICSI(顕微授精)周期1,398例、合計7,846個の胚を対象に、男性のBMI(体格指数)と胚発生および妊娠結果の関連が解析されました。
まず受精率について見ると、正常体重の男性では75.1%、過体重では74.6%、肥満では73.1%と、グループ間で大きな差は認められませんでした。また、胚盤胞まで発育する割合も正常体重65.1%、過体重63.6%、肥満63.8%とほぼ同程度でした。
つまり、受精そのものや胚盤胞形成といった基本的な胚発生の指標は、男性の体重によって大きく変わらない可能性が示されています。
胚の「発生スピード」には違いがある
一方で、胚の発生過程を詳細に観察すると違いが見えてきます。タイムラプス培養装置を用いた解析では、肥満男性由来の精子を用いた胚では、2細胞期から5細胞期に至る初期分割のタイミングがやや遅れる傾向が確認されました。
さらに、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)の質がやや低下する傾向も報告されています。内部細胞塊は将来胎児になる細胞群であり、この部分の質は胚の発生能力と関連すると考えられています。つまり、見た目の発育率は同じでも、胚の「質」や「発生のダイナミクス」に微妙な違いが生じている可能性があります。
流産率には明確な差
臨床成績を見ると、着床率は正常体重64.8%、過体重64.3%、肥満58.7%、また臨床妊娠率は正常体重60.0%、過体重58.9%、肥満52.9%と、統計的には大きな差はみられませんでした。
しかし流産率には明確な違いが認められました。正常体重の男性では9.5%であったのに対し、肥満男性では13.5%と有意に高くなっていたのです。出生率についても統計学的な有意差には至らなかったものの、正常体重46.7%、過体重43.7%、肥満36.5%と低下する傾向が示されました。
これらの結果は、男性の肥満が妊娠の成立そのものよりも、妊娠の維持に影響する可能性を示唆しています。
なぜ男性の肥満が影響するのか
その背景として考えられているのが、精子の質に関わる生物学的変化です。肥満男性では、
精子DNA損傷の増加
酸化ストレスの上昇
ホルモンバランスの変化
などが起こることが報告されています。また、精子DNA断片化率の上昇や、精子のエピジェネティックな変化も指摘されており、これらが胚発生や妊娠維持に影響する可能性があります。
生活習慣は「改善できる要因」
重要なのは、体重や生活習慣は改善可能な要因であるという点です。
妊娠を希望する場合、女性だけでなく男性も健康管理を意識することが大切です。例えば、
体重を適正範囲に近づける
バランスのよい食事を心がける
適度な運動を習慣にする
十分な睡眠をとる
過度の飲酒を控える
といった生活習慣の改善は、精子の状態を良くする可能性があります。
不妊治療ではどうしても女性の治療に注目が集まりがちですが、妊娠は夫婦二人で成り立つものです。ご夫婦で生活習慣を整えることが、妊娠の可能性を高める大切な一歩になると言えるでしょう。
参考文献
Male obesity impairs early embryonic development and increases miscarriage risk in oocyte donation cycles
Fertility and Sterility 2026;125(3)
可能性がございます。
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