採卵数は多いほど良いのか?―10年後の結論と臨床への本当の意味
東京都中央区の不妊治療専門医院、両角レディースクリニックです。
体外受精において「採卵で何個の卵子が取れれば良いのか」という問いは、この20年間、現場で何度も繰り返されてきた議論です。
今回は、この問いに対する一つの節目となった考え方を、10年後の現在の視点から再評価した最新論文(Human Reproduction 2026)の内容をご紹介します。当院の診療方針にも関わる、非常に重要な知見です。
指標の変化:新鮮胚移植から「累積生児獲得率」へ
かつての不妊治療では「新鮮胚移植での妊娠率」が主な指標でした。しかしその後、治療の評価は「生児獲得率(赤ちゃんが生まれる確率)」へ、さらに1回の採卵で得られた胚をすべて使い切るまでの「累積生児獲得率」へと進化してきました。
この「視点の変化」こそが、現代の不妊治療の核心といえます。
「15個がピーク」という定説の再評価
従来のデータでは、採卵数が増えるほど妊娠率は上昇しますが、おおよそ15個前後でピークに達し、それ以上ではむしろ低下するという「非線形」の関係が示されていました。採卵しすぎることのリスクを示唆するものとして広く認識されてきたグラフです。
しかし、本論文ではここに大きな転換が加えられています。
「凍結胚移植も含めた累積生児獲得率」で評価した場合、採卵数が増えるにつれて、出産に至る確率は一貫して上昇していることが示されたのです。
【採卵数と累積生児獲得率の関係】
・1〜3個: 約20%台
・4〜9個: 約40%
・10〜15個: 約50%
・15個以上: 60%超
この結果は、「15個で十分」という従来の考え方を大きく修正するものです。
新鮮胚移植周期だけを見れば差がなくても、凍結胚を含めたトータルの治療成績で見れば、採卵数が多いことのメリットは明確に表れます。
大規模データが示す「プラトー(停滞)」のない上昇
さらに近年の大規模データでは、この傾向がより顕著になっています。
採卵数が25個を超えると累積生児獲得率は70%近くに達し、かつて言われていたような「一定数で頭打ちになる現象」は認められなくなっています。これは従来の教科書的な知識を覆す、非常にインパクトのあるデータです。
年齢による「質の壁」と卵巣予備能の限界
ただし、この「多ければ多いほど良い」という法則が、すべての患者様に当てはまるわけではありません。論文では年齢別の解析も重要視されています。
・38〜41歳: 採卵数の増加に伴い生児獲得率は上昇する。
・42歳以降: 採卵数増加によるメリットが明らかに減弱する。
・44歳以上: 採卵数を増やしても、利益がほとんど見られなくなる。
これは、年齢に伴う「胚の染色体異常率」の上昇と一致します。単に数を追えば良いという問題ではなく、「卵子の質」とのバランスが極めて重要であることを示唆しています。
また、「刺激を強めればすべて解決する」わけでもありません。「OPTIMIST試験」のデータが示す通り、卵巣予備能が低い(低反応)例に対してゴナドトロピンの投与量を増やしても、累積生児獲得率は改善しません。卵巣のポテンシャルを超える刺激は、必ずしも結果に結びつかないのが現実です。
「One and Done」戦略とライフプラン
論文では「One and Done」という概念も紹介されています。
これは、一度の刺激・採卵でできるだけ多くの卵子を確保し、第1子だけでなく第2子以降の妊娠機会まで見据える戦略です。通院負担を減らしつつ、将来の家族計画を叶える上で非常に合理的な考え方です。
特に「卵子凍結」を検討される方にとっては、具体的な数値が指標となります。
・35歳未満: 約15個の成熟卵子で高い出産確率が期待できる。
・38歳以上: その倍以上の数が必要になる。
・40歳以上: さらに多くの数が必要。
複数のお子様を希望される場合は、さらに多くの卵子が必要となり、カウンセリングにおける極めて重要な情報となります。
結論:当院が大切にしていること
この最新論文は、一見すると「数が多いほど良い」という結論に見えますが、本質的なメッセージは非常にバランスの取れたものです。
「多く採れるポテンシャルがある患者様ではそのチャンスを最大限に活かすべきだが、すべての患者様に一律に強い刺激を行うべきではない」
採卵数という数字だけを追い求めるのではなく、患者様一人ひとりの年齢、卵巣予備能(AMHなど)、そして将来のライフプラン。これらを総合的に踏まえた上で、最適な「オーダーメイドの戦略」を選択することが求められています。
当院では、こうした最新のエビデンスを常にアップデートし、皆様にとっての「最善」を共に考えてまいります。
引用文献:
Human Reproduction, ‘The more, the better’ a decade later. Still true? 2026 Vol.41 No.5 647–649
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