禁欲期間は短い方が良い―ICSI成績と精子DNA損傷から見えた結果

採精前の禁欲期間について、「長い方が精子数が増えるから良い」と考えられてきた時代が長く続いていました。しかしその常識が多数のエビデンスにより覆されています。
今回ご紹介する論文は、
禁欲期間と精液所見、さらにICSI成績との関係を詳細に解析した非常に興味深い研究です。
「禁欲期間は長いほど良い」という認識の見直し
結論は、禁欲期間は短い方が成績が良い。これです。
論文冒頭では、WHOは2〜7日の禁欲期間を推奨している一方、ESHREでは3〜4日を推奨していることが紹介されています。しかし、その推奨の科学的根拠は十分ではないと著者らは述べています。
この研究では、818人の男性を対象に精液所見を解析し、そのうち483周期についてICSI成績との関連まで検討しています。まず非常に重要なのが、ページ3のTable 2です。

「禁欲で精子が増える」という従来の考え
ここでは、禁欲期間が長くなるほど、
- 精液量
- 精子濃度
- 総精子数
- 総運動精子数
が増加していることが示されています。
つまり、「長く禁欲すると精子数が増える」という従来の考え方自体は、この研究でも確認されています。
しかし、この論文で本当に重要なのはその先です。
数は増える、でもダメージも増える—禁欲期間の落とし穴
同じTable 2では、禁欲期間が長くなるほど、精子DNA fragmentation(SDF)が増加していることが示されています。
つまり、精子数は増える一方で、DNA損傷も増えている可能性があるということです。
著者らはその理由として、長期間精巣上体内に留まった精子が、活性酸素による酸化ストレスに長くさらされるためではないかと考察しています。
ページ4のTable 5では、さらにICSI成績との関係が解析されています。

長い禁欲が受精・妊娠率に与える影響
ここでは、禁欲期間が長くなるほど、
- 受精率
- 胚盤胞到達率
- 着床率
- 妊娠率
が低下していることが示されています。
特に興味深いのは、著者らが「4日」を境界として解析している点です。
ページ5のTable 6では、4日以下と4日超で比較されています。

その結果、4日以下群では、
- 精子DNA損傷率が低い
- 受精率が低い
- 良好胚率が高い
- 胚盤胞形成率が高い
- 着床率が高い
- 妊娠率が高い
という結果でした。
つまり、「精子数は少し減っても、DNA損傷が少ない精子の方がICSI成績には有利かもしれない」ということです。
さらに非常に印象的なのが、ページ5〜6のTable 7です。

禁欲期間短縮と精子DNA損傷の低減
ここでは、4日以下群をさらに細かく分けて解析しています。
その結果、1日禁欲群では着床率が最も高く、妊娠率も最も高い傾向を示しました。
著者らは、「短い禁欲期間では精子が新鮮な状態で回収されるため、DNA損傷が少ない可能性がある」と考察しています。
また、ページ6では、ICSIでは自然選択を介さずに精子を直接卵子へ注入するため、DNA損傷精子の影響がより出やすい可能性についても述べられています。
この論文は、近年注目されている「short abstinence strategy」をかなり支持する内容です。
つまり、「毎日あるいは短期間で射精した方が、より新鮮でDNA損傷の少ない精子が得られる可能性がある」という考え方です。
新しい視点をもたらす重要な研究
ただし、この研究にも限界があります。
まず対象の多くは男性不妊患者であり、すべての男性に当てはまるとは限りません。
また、症例数は決して小さくありませんが、1日禁欲群は31例と少数です。
さらに、この研究はICSI成績を見ているため、自然妊娠や一般精液検査へそのまま当てはめることはできません。
それでも、この論文は非常に実践的です。
「禁欲期間は長い方が良い」という従来の考え方に対し、「短い方が精子DNAの観点では有利かもしれない」という新しい視点を示しています。
特に、精子DNA fragmentationが高い患者さんや、反復不成功例では、短めの禁欲期間を試みる価値がある可能性を示した重要な研究と言えると思います。
出典
Andrology
Revisiting the impact of ejaculatory abstinence on semen quality and intracytoplasmic sperm injection outcomes
2019; Vol.7: 213–219
まとめ:精子は「量」より「質」が結果を左右する
この研究は、「禁欲期間が短い方が、精子DNAの状態やICSI成績に良い可能性がある」ということを示した論文です。これまで「長く禁欲した方が精子数は増える」と考えられてきましたが、この研究でも実際に禁欲期間が長いほど精子数は増えていました。
一方で、長期間禁欲すると精子DNA損傷も増加していました。
さらに重要なのは、4日以下の短めの禁欲期間では、受精率、胚盤胞到達率、着床率、妊娠率が良好だったことです。特に1日禁欲群では、着床率が最も高い結果でした。
著者らは、短い禁欲期間では、より新鮮でDNA損傷の少ない精子が得られる可能性を考察しています。ただし、この研究はICSI患者を対象にした研究であり、すべての男性にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、精子DNA fragmentationが高い方や反復不成功例では、短めの禁欲期間を試す価値がある可能性を示した重要な研究です。
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