反復着床不全に対するタクロリムス治療 ― 日本の先進医療研究で約60%の妊娠率が報告 ―
体外受精の技術は大きく進歩していますが、それでもなお、良好な胚を複数回移植しても妊娠に至らない患者さんが存在します。いわゆる「反復着床不全(Repeated Implantation Failure:RIF)」です。
これまで反復着床不全の原因としては、胚の質や子宮内膜環境などが中心に考えられてきました。しかし近年、それだけでは説明できない症例の中に、「母体側の免疫」が関与している可能性が注目されています。
最新の臨床研究:免疫抑制薬「タクロリムス」の有効性と安全性
今回、国立成育医療研究センターを中心とした研究グループにより、免疫抑制薬「タクロリムス」を用いた臨床研究が行われ、その有効性と安全性が報告されました。
研究対象となったのは、良好胚移植を3回以上、合計4個以上の良好胚を移植しても一度も生化学的妊娠に至らない、さらに、Th1/Th2比などから「細胞性免疫が強い」と考えられた重症不妊症患者さんです。
妊娠は、父親由来の遺伝情報を持つ胚を、母体が免疫学的に受け入れることで成立します。しかし一部の患者さんでは、この免疫バランスが崩れ、胚を異物として排除する方向へ働いている可能性があります。
この研究では、その過剰な免疫反応を抑える目的で、免疫抑制薬であるタクロリムスを使用しました。
実際の治療プロトコールと研究結果
実際の治療は、胚移植2日前から開始。1日2mgまたは4mg、合計16日間内服という方法で行われています。
研究の結果、妊娠率は低用量群(2mg/日)で66.7%、高用量群(4mg/日)で55.6%と報告されました。
また、安全性についても、重篤な有害事象は認められず、軽度の副作用のみであったとされています。
この研究結果は、厚生労働省の第180回先進医療技術審査部会において、「安全性が高く有効な治療」と評価されました。
タクロリムス治療における重要な注意点
一方で、この治療には重要な注意点もあります。
まず、すべての反復着床不全患者さんに有効なわけではありません。適応となるのは、あくまで免疫異常が疑われる一部の患者さんです。
また、現時点では保険診療として標準化された治療ではなく、研究的側面を含む治療でもあります。
さらに、免疫抑制薬である以上、必要以上に広く使用すべき治療ではありません。実際、先進医療審査でも、「一定の条件下で慎重に使用されるべき」との意見が付されています。
両角レディースクリニックでの取り組みと方針
当院でも、反復着床不全や反復流産の一部症例に対して、Th1/Th2免疫検査およびタクロリムスを用いた免疫調整治療を開始しています。

対象となるのは、良好胚を複数回移植しても妊娠に至らない。他に明らかな原因が認められない。Th1/Th2異常など免疫異常が疑われる患者さんです。
当院では、安全性を重視し、先進医療で用いられた16日間プロトコールに準じた方法のみを採用しています。
反復着床不全の原因は一つではありません。胚、子宮、ホルモン、免疫など複数の因子が複雑に関与しています。
その中で「免疫」という視点は、これまで治療に難渋してきた患者さんにとって、新たな可能性となるかもしれません。
一方で、必要以上に期待を煽るべき領域ではないとも考えています。
当院では今後も、エビデンスを慎重に確認しながら、本当に必要な患者さんに対して、安全性を重視した形で治療を提供していきたいと考えています。

【参考文献】
Efficacy of tacrolimus treatment in two-dose single-group controlled trial for patients with refractory infertility
Michi Hisano, Koji Nakagawa, Masanori Ono, Osamu Yoshino, Yasushi Hirota ほか
Journal of Reproductive Immunology(2026年5月)
可能性がございます。
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