肥満患者では新鮮胚移植と全胚凍結、どちらが良いのか―BMI別に検討した最新研究
近年、体外受精の現場では「新鮮胚移植」と「全胚凍結後の融解胚移植(freeze-all strategy)」のどちらを選ぶべきかが大きなテーマになっています。
特に肥満の患者さんにおいては、「凍結融解胚移植の方が子宮内膜の環境を整えやすいのではないか」という考え方が広がってきました。しかし実際には、BMI(体格指数)と移植戦略を同時に詳細解析したデータは非常に限られていました。
今回ご紹介するのは、BMI別に「新鮮胚移植」と「全胚凍結戦略」の成績を比較した、非常に興味深い最新の研究論文です。
1.解析された1,013回の採卵周期と患者背景
この研究では、2019年から2023年までに行われた1,013回の採卵周期が解析されています。患者さんはBMIによって、正常体重、過体重、肥満Class I、II、IIIに分類されました。
各BMI群の背景を詳細に見てみると、BMIが高くなるにつれて、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の頻度や、使用するゴナドトロピン(排卵誘発剤)の量、アンタゴニスト法の使用率は増加していました。
一方で非常に興味深いのは、BMIが高くなっても、採卵数、成熟卵率、胚盤胞到達率には大きな差がなかったという点です。つまり、「肥満だから卵が育たない」「良い胚盤胞にならない」という単純な話ではないということがデータとして示されています。

2.新鮮胚移植 vs 全胚凍結:BMI別の比較データ
この論文の最も重要なデータにおいて、新鮮胚移植と全胚凍結戦略がBMI別に比較されていますが、注目すべきポイントがいくつかあります。
① 累積生児獲得率に有意差は認められなかった
まず最も重要なのは、「累積生児獲得率には差がなかった」という点です。正常体重群から高度肥満群まで、いずれのBMI群でも累積生児獲得率に有意差は認められませんでした。つまり、「最終的に赤ちゃんを授かる確率」は、新鮮胚移植でも全胚凍結でも大きく変わらなかったという結果です。
これは非常に重要な知見です。近年、「肥満患者さんではfreeze-all(全胚凍結)の方が有利」という考え方もありましたが、この研究ではそれを支持する結果にはなりませんでした。
② 高度肥満群では新鮮胚移植の方が生児獲得率が高かった
さらに興味深いのが、高度肥満群(BMI 40以上)のデータです。この群では、初回移植あたりの生児獲得率は、むしろ新鮮胚移植の方が高かったのです(新鮮胚移植49.3%に対し、freeze-allは31.8%)。
この結果からも、「高度肥満だから凍結融解胚移植が有利」とは一概に言えないことが分かります。
また、妊娠率、流産率、生化学流産率(化学流産)についても、BMI群ごとに大きな差は認められておらず、肥満群だからといって流産率が著明に悪化しているわけではありませんでした。論文の結論(Conclusion)でも、著者らは「肥満患者でも新鮮胚移植を避ける必要はない」と述べています。

3.従来の仮説と「BMIだけでIVFを拒否すべきではない」という提言
従来は、「肥満では子宮内膜の受容能が低下する」「freeze-allの方が内膜環境を整えられる」という仮説が有力視されていました。しかし今回、その優位性は明確には証明されませんでした。つまり、「肥満だから必ずfreeze-all」という単純な時代ではない可能性が示唆されています。
また、この論文ではASRM(アメリカ生殖医学会)の重要な考え方にも触れており、「BMIだけを理由にIVF(体外受精)を拒否すべきではない」と提言していることが紹介されています。
これは当院としても非常に重要視しているポイントです。実際、BMIが高い患者さんは、「私は妊娠できないのではないか」「移植しても無駄になってしまうのでは」と強い不安を抱えてご来院されるケースが多くあります。しかしこの研究は、高度肥満の患者さんであっても十分に出産(生児獲得)が可能であり、しかも新鮮胚移植が必ずしも不利ではないことを示してくれています。
4.本研究の限界と、これからの不妊治療に求められること
一方で、この論文の限界(注意点)についても非常に慎重に述べられています。
後ろ向き研究であること、freeze-allを選択した詳細な理由まで解析できていないこと、凍結融解周期の具体的なプロトコールが不明なことなどが挙げられており、「新鮮胚移植が絶対に優れている」と結論づけるための論文ではありません。
しかし、この研究が持つ意義はかなり大きいと私は感じています。
現在、多くの不妊治療施設で「肥満患者=freeze-all(全胚凍結)」という流れが増えています。しかし、この論文は「BMIという数値だけで一律に移植戦略を決めるべきではない」という可能性を示しています。
特に、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク、採卵時のホルモン値、子宮内膜の状態、そして何より患者さんのご希望などを総合的に判断する「個別化医療」の重要性を示した研究と言えるでしょう。
肥満の患者さんに対して、「BMIが高いから新鮮胚移植は無理です」と単純に説明する時代は、もう終わりを迎えているのかもしれません。当院ではこれからも、最新のエビデンスに基づき、お一人おひとりの状態に合わせた最適な治療戦略をご提案してまいります。不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
【出典】
Fertility and Sterility
Reproductive outcomes of fresh vs. freeze-all embryo transfer strategies with blastocysts stratified using body mass index
2026; Vol.125 No.5: 914–918
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