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院長コラム

凍結胚移植は先天性心疾患のリスクを高めるのでしょうか? 65万人を対象とした最新研究

凍結胚移植は先天性心疾患のリスクを高めるのでしょうか? 65万人を対象とした最新研究
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体外受精を受けられる患者さんから、

  • 赤ちゃんに先天異常が増えることはありませんか
  • 凍結胚移植と新鮮胚移植で違いはありますか

と質問を受けることがあります。

近年は単一胚移植が普及し、多胎妊娠による影響を除いた安全性の検討が可能となってきました。しかし、ARTそのものが先天性心疾患へ与える影響については、まだ十分な結論が得られていません。

ARTと先天性心疾患:65万例コホート解析

2026年にFertility and Sterility誌に掲載されたこの研究では、韓国全国の65万1,964組の母児を対象に、自然妊娠、人工授精(IUI)、新鮮胚移植、凍結胚移植で生まれた単胎児の先天性心疾患発生率が比較されました。

この研究は全国規模のデータベースを利用した非常に大規模なコホート研究であり、単胎妊娠だけを対象としている点が大きな特徴です。

先天性心疾患の発生率と背景因子を検証

研究では、先天性心疾患は自然妊娠では6.0%でしたが、人工授精では7.9%、新鮮胚移植では8.7%、凍結胚移植では10.4%と、ART群で高い割合が認められました。

4ページ目のTable 1には、各群の患者背景と先天性心疾患の発生率がまとめられています。母体年齢や妊娠高血圧症候群、糖尿病、低出生体重児、早産などの背景も整理されており、凍結胚移植群では高血圧や巨大児が多いことも示されています。

条件を揃えても残る差―ART別にみた先天性心疾患リスク

さらに、母体年齢や高血圧、糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群などの影響を補正した解析でも、凍結胚移植では自然妊娠に比べて先天性心疾患のリスクは約1.55倍新鮮胚移植では約1.30倍人工授精では約1.22倍と有意に高い結果でした。

特に凍結胚移植では右室流出路奇形のリスク上昇が認められました。


5ページ目のTable 2には補正後のリスク比が詳しく示されており、この研究の最も重要な結果となっています。また、中隔欠損や動脈管開存についても、人工授精および胚移植群で増加し、その割合は凍結胚移植群で最も高くなっていました。

研究対象はどのように選ばれたのか―フローチャートで見る解析対象

2ページ目のFigure 1には研究対象となった症例のフローチャートが示されています。約120万人以上の分娩から、多胎妊娠や染色体異常を除外し、最終的に65万人以上の単胎妊娠を解析対象としたことが分かります。この図を見ることで、研究対象がどのように選択されたかを理解できます。

心疾患リスクの新しい知見

興味深いことに、自然妊娠では男児の方が一部の重症心疾患が多く認められましたが、ARTや人工授精ではこの男女差はほとんど認められませんでした。

5ページ目のTable 3では、男女別に各心疾患の発生率が比較されています。自然妊娠では性差が存在する一方で、ARTではその差が目立たなくなるという新しい知見が示されています。

ARTの影響はあるのか?示唆されるメカニズムと研究の限界

著者らは、その理由として凍結胚移植に伴う子宮内膜環境や胎盤形成への影響、あるいは胚凍結・融解に伴うエピジェネティックな変化などの可能性を考察しています。

しかし、今回の研究だけで原因を証明したわけではありません。また、不妊症そのものの影響や父親因子、胚盤胞か初期胚か、ICSIの有無などは解析できておらず、ART自体が直接原因とは断定できないことも述べています。

解釈に注意:保険データに基づく先天性心疾患の定義

この研究で注意しなければならない点は、先天性心疾患の定義が保険請求データに基づいていることです。軽症例や出生直後に診断された一過性の病変も含まれている可能性があり、一般的な先天性心疾患の発生率より高く見積もられている可能性があります。

そのため、「ARTで先天性心疾患が10%以上になる」と単純に解釈することはできません。著者ら自身も、この点には注意が必要であると述べています。

研究結果の整理と今後の課題

私はこの論文は非常に興味深い研究ですが、患者さんへ説明する際には慎重さも必要だと感じました。確かに大規模データではART、特に凍結胚移植で先天性心疾患のリスク上昇が示されました。

しかし、その背景には不妊症そのものや母体年齢、妊娠合併症など多くの要因が関与している可能性があります。また、絶対的な発生頻度は依然として低く、多くの赤ちゃんは健康に出生しています。

この研究は、ARTの安全性についてさらに詳しく検討していく必要性を示した重要な報告です。患者さんに必要以上の不安を与えるものではなく、現在分かっているデータを正しく理解し、適切な妊娠管理や胎児心エコーなどの評価につなげていくことが大切だと思います。


【参考文献】
Kim HY, Ahn KH, Hong SC, Oh MJ, Cho GJ.
Congenital Heart Disease in a Singleton Pregnancy Conceived Through Assisted Reproductive Technology.
Fertility and Sterility. 2026;126(1):67-74.

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